花散里で逢いましょう 2
- 1日目 京都 -


「くれなゐ」 music by VAGRANCY様







「いらっしゃい。ご無沙汰してたね。そう…丁度1年ぶりかな?」


玄関を入ると待ち構えていたように現れた人物…今はこの旅館の跡取となった徳彦さんだった。
一応京都駅に着いた時に連絡は入れたおいたが、突然の来訪にも関わらず快い対応をしてくれる。


「こちらこそご無沙汰していました。その節は色々とご迷惑をお掛けしてしまいまして…」
「それはお互い様じゃないか?どちらかっていうと此方が一方的に迷惑かけたって方が正しいんだけど。(苦笑)」
「そんな事ないです!」


慌てて否定するも、すぐさま打ち消される。


「ま、どちらにしても…お互いそれなりに哀しい思いをしたって事には違いないだろ?もう過ぎてしまった事だし」
「そうですね。話を蒸し返して申し訳ありませんでした」
「こちらの科白だよ。御客様に気を使わせてしまうなんて、経営者失格だな」


互いに顔を見合わせて思わず笑いあう。

それにしても…たった1年でこんなに雰囲気が変わってしまうものなのだろうか?
歳の割には落ち着きの無いような(失礼)感じの人だったのに、今はそんな面影すらない。
成熟した大人の男性…そんな表現が一番相応しかった。

それなりに…か。
あの事件の後始末等、相当苦労したに違いない。

闇己君からその後の尼辻の状況については折に触れ聞いていた。
死体遺棄容疑で大女将と善造さんは書類送検されたが、布椎側の尽力もあって執行猶予付きの有罪判決になったそうだ。
しかしながら…商売を行っている家。
一度警察沙汰になれば信用は失墜してしまう。
数百年に渡る歴史に彩られた「尼辻」だとしても、それは避けられない事態だったのだろう。
養子になって早々、そのような事件に巻き込まれてしまった徳彦さんの雰囲気が一変してしまったのも無理はないと思えた。


「今回は1人?闇己君も一緒なのかと思っていたよ」


部屋へ案内される道すがら、徳彦さんが呟く。


「あははは。今回は私1人です。そうそうセットって訳にもいかないでしょ?(苦笑)」
「そうなのかい?年頃のお嬢さんと男前の彼氏なら"絶対一緒に来る!"って踏んでいたんだけど?」
「彼とはそんな関係じゃないですよ!もう、からかわないで下さいって。(トホホ)」


正直な感想。今はまだ…


「失礼失礼。そんな風に勘ぐりたくなるほど…綺麗になったよ?」
「またまた〜。お客商売しているからお世辞も上手なんだから(笑)」
「君にお世辞言ってもしょうがないだろ?何せ"遠い親戚"だし。凄く綺麗になった」
「そう…ですか?」


不意に足を止め、中庭を臨みながら徳彦さんは言った。


「ああ。今だから言っちゃうけど、初めて会った時は"男の子の間違いじゃないか?"って、一瞬お義母さんからの情報を聞き間違えたかと思ったし」
「やっぱり。(苦笑)みんな勘違いしますから。私自信も気にしていないし」
「でもね…さっき玄関で君を見つけた時は人違いじゃないかと思ったんだけど、声は変わっていないだろ?」
「ふふふ。見た目は化粧で誤魔化せますけど、さすがに声までは変えられませんし」
「素敵な人が見つかったんだね?」


ニッコリ微笑みながら単刀直入に言われてしまうと、とぼける訳にもいかなくて。
素直に頷いてしまった。


「…前途多難なんですけどね」
「恋は障害が多いほど燃えるものだろ?(ニヤッ)」
「そう、上手くいけばいいんですけど…(苦笑)」
「そうだね…あ、この部屋だよ。ここからならあの櫻も見えるからさ」
「有難うございます」
「何か必要なものがあったら遠慮なく言ってね。それじゃ、ごゆっくり」
「はい」


通されたのはあの桜が綺麗に見渡せる部屋。
去年泊まった部屋とは、はす向かいに当たる。
部屋の隅に荷物を下ろすと早速窓を開け、ぼーっと散り急ぐ花弁を見つめた。



綺麗になったって…。



気付いて欲しい人はそう思っていないだろう。
だって…彼は私を「男」だと思ってるから。

あんな風に想いを寄せてくれているのは…私が「男」だからで。





肌寒さを感じて我に返る。
春とはいえ、夜になるとそこそこ冷え込んでくるのは京都も同じ。
何時の間にか夕闇迫る時刻になっていたようだ。

薄闇の中でもはっきりと己の存在を誇示する櫻が心底羨ましかった。

何故か一時でも見ていたくなくて…慌てて窓とカーテンを閉めた。








chapunの言い訳

本編の始まりです〜!
尼辻の跡取になった途端にとんでもない事件に巻き込まれた不憫な徳彦さんをどうにか救済してあげたくて(苦笑)登場願ったのですが…敢え無く撃沈。(馬鹿)

あんな事件があっちゃ、お客商売にはそれなりの影響も出るかと。やっぱり苦労したんだろうなー。
ま、それはそれ、老舗の底力で倒産の危機だけは免れた様子で。(爆)

それにしても…邦生さんと小夜子さんが眠っていた櫻、これからもあっちこっちで登場してくれます。
どっちかっていうと、私はこの櫻について書きたい模様。
(これ書きたいから、「原作重視」ってリクの中、『鬼哭の辻』選んだんだもんね〜♪/撲殺)
許せ!まみやさん!!(爪-爪)

なんだか順調に書き進められそうなんで、次もそんなにお待たせしないで済むかと思います。
(chapun嘘吐きだから、余り信用しないように^^;)




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