恋セヨ乙女 7 - 七地 17歳 - |
「何所から話せばいいのか…。とにかく俺はあんたを求めてた。 あんたに触れたくて、あんたと一緒に時を重ねていきたくて…でも、その想いは今の今まで満たされる事はなかった。 あんたが何所にいるのか、あんたがどのような生活をしているか知っていたのにな」 「私の事、知っていた?」 「ああ。でも…近づく事が出来なかった。許しを得られなかったから」 俯き苦笑する。 『許しを得られなかった』って…それはどういう意味だろう? 訝しむ私を察して言葉を続ける。 「あんたの叔母さんだよ」 「何故?どうして叔母さんが許さないの?わかんないよ…君の言っている意味が」 「あんた…小さい頃の事、どの程度覚えてるんだ?」 真剣な眼差し。私は記憶の糸を手繰り寄せる…。 「…一番古い記憶…泣いている叔母さんに抱き締められてた。 どんなに理由を尋ねても『大丈夫』って言葉しか返ってこなくって、何時の間にか私も一緒に泣いてた」 「それ…多分、あんたの両親の葬式の時だ。俺もそこにいたから」 「君もいた?」 「ああ…俺の両親の葬式でもあったからな…」 信じられない言葉。 それって…… 「あんたの両親と俺の両親は…同じ事故で亡くなった。 俺の父が運転する車の事故でな」 初耳。 私は両親が亡くなった時の状況を全くと言っていいほど知らない。 今までに何度も叔母に尋ねてみたが、いつもはっきりとした答えは返ってこなかった。 私に答えずらい事。あまりいい亡くなり方ではないとは想像していた。 真実は… 「これ、見てくれるか?」 サイドテーブルの引き出しから古いアルバムを取り出す。 促されるまま視線を落とすと…幸せそうに微笑む若い男女4人が、仲睦まじく1つのフレームに収まっていた。 その中の2人は私にも見覚えのある顔…お父さんとお母さんの笑顔だった。 次々とページを捲っていくと、どの写真も心から楽しそうな表情で溢れ返っていた。 「お父さんと…お母さん…だ…」 何時の間にか涙が溢れていた。 私の手元に残っているどの写真よりも鮮やかな表情。 貪るように見つめ、餓え乾いた心を満たすかのように刻む。 更に読み進めて行くと、小さな子供の写真。 「これは…君と私?」 「ああ。家の庭で撮ったみたいだな。その隅の方に見える樹、あんたがいつも道路から見上げている櫻だよ」 肩を寄せ合い、内緒話でもしているかのような構図。 他にも2人で写された写真が沢山あった。 「俺達の両親は友人同士だった。俺達が生まれるずっと前から。 互いの家を行き来したり、共に旅行へ行ったり…この写真がその証拠だ。 幸せな世界。この中では今も続いてる。 それを…壊してしまった」 重々しい口調で彼は呟いた。 「あんたがこんなに幸せそうな笑顔をしていたのに…その世界をぶち壊してしまったから。 楽しかったはずの記憶をなくさせてしまったから。 だから、あんたの叔母さんは俺を許してくれなかった。あんたの幸せを奪った奴らの息子だから」 「そんな…不可抗力じゃない!」 「でも、紛れもない事実だ。俺には抗える理由がない」 言葉を失ってしまう。 「あの時も、俺とあんたの両親は一緒に旅へ行ってたんだ。 普段は俺達も一緒に連れて行ってたのに、その時に限っては親だけでだったらしい。 3泊4日。親父達の故郷である出雲への旅。 今はダムの底に沈んでしまった生まれ故郷を訪ねる、懐かしむ旅。 島根までは飛行機で、そこからは親父の運転するレンタカーで現地に向かっていた」 一度言葉を切る。深呼吸をしてから彼は確信に触れた。 「親父の運転する車が事故った。 対向車線を走っていたトラックがセンターラインを越えて来たのを避けようとしての事だったらしい。 その所為で…みんな亡くなった。誰一人帰ってこなかった…」 震える声が彼の辛さを物語っている。 寂しい思いをしていたのは私だけじゃなかったんだと。 「俺達がもうすぐ4歳になろうとしていた頃だ。 俺はさっきのお手伝いさん…木村さんから話を聞いた。『闇己さんは男の子だから、大丈夫』って。 意味なんてわからなかったけど、酷く哀しかった記憶がある」 沈黙。 窓の外からは未だ雨音が微かに響いていた。 覚えていない私は恵まれていたのかもしれない。 真実を知らなくて幸せだったのかもしれない。 だって…彼はそんなに小さな頃から現実を見つめていなければならなかったのだから。 彼の頭をそっと撫でる。小さい子を『いい子いい子』するように。 「あんたに会いたかった。 寂しかったから、いつものようにあんたに会って幸せな気持ちになりたかったのに…。 斎場で見つけたあんたは…壊れそうな程泣き叫んでた。 近づきたくても許されなくて、遠くから小さな背中を見つめる事しか出来なかったんだ。」 抱き締められる腕に力が入る。 「子供の俺じゃどんなに足掻いてもあんたに近づく事が出来ない。ただの我儘だ。 だから、早く大人になりたかった。あんたの叔母さんに認めてもらえるようにな。 親父がやっていた会社の後を継ぎ、勉強も必死にやった。 毎年、命日の近くにあんたの叔母さんに面会した。あんたの近況を聞く為。あわよくば会わせてもらう為に。 いつもあっけなく追い返されるけどな。 でも…今年は違った」 「違った…?」 「そう。違ったんだ。 『健美に会ってもいい』って。もう子供じゃないから大丈夫だろうと。 但し、俺が健美を選んでいても、健美は俺を選ばないかもしれない。それだけは忘れるなと」 叔母さんは小さな頃から私に言っていた。『16歳になったらほぼ大人。17歳なら立派な大人』って。 だから独立する事も許してくれたんだっけ。 「無茶苦茶嬉しかった。 でも、どうやってあんたに会えばいいのかわからなくって…。 あの雨の日、いつものようにあんたが家の前を通るのが見えた。この部屋の窓から。 いつもなら自転車であっという間に通り過ぎるけど、あの日に限って歩いてたから。 我慢出来ずに飛び出してた。 門を回ってたらあんたは通り過ぎてしまうから、塀をよじ登って飛び降りたら…あの様だ」 「じゃぁ、私に話し掛けるのが目的だったって?」 改めて問うと、顔を真っ赤にしてしまった。 さっきは平気で恥ずかしい事口走っていたのに…結構純粋なんだ。(笑) 「悪かったな。そうだよ。 せっかくのチャンス逃したら、二度と話せないかもしれないだろ? それから慌てて今の学校に編入届け出した。寄付金積んであんたと同じクラスにしてもらうの、結構苦労したんだぜ?」 意地悪そうに笑う。 こんな関係になってから言うのも今更だけど…信じられない。 そこまで私に執着する理由がわからない。 「…あのさ、どうしてそんなにまで私に執着するの?容姿端麗・文武両道・お金持ちの君なら引く手数多のモテっぷりでしょ? こんな目立たず騒がず、可愛くなけりゃ賢くもない私にこだわる必要ないと思うんだけど?」 自分で言って落ち込んでしまいそうな程の格差。 苦笑以外の何物でもない。 「あんた馬鹿か?人を好きになるのに理由もクソもあるか! 好きな女に執着したくなるのは必然だろう?自分を見て欲しいと思うのは当然だろ? 可愛くない?目立たない?賢くない?ふざけるな。誰がそんな事言うんだ? 俺にしてみればあんたより可愛い女はいない。それだけ覚えておけ。 誰か文句言うんなら全て俺を通してからにさせるからな」 あはははは…。恋は盲目とは先人も上手い事を言ったものだ。(苦笑) 「そうだね…人を好きになるのに理由なんか必要ないよね。 君の事知っていた筈だけど、私にとっては出会ったばかりに等しいんだからさ。 それでも…君の事好きだし…」 「…でも、いいのか?俺、あんたの両親を…」 「君には何の罪もない。君が責任感じる事じゃないもの。 確かにそれが真実なのかもしれない。でも今の私たちには関係ない…違う。その事実があったからこそ今こうして一緒にいられるのかもしれないでしょ? 感謝しなきゃ。君をこの世に誕生させてくれたご両親に、私を生んでくれた父さんと母さんに。ね?」 「ああ…そうだな」 真実を話してくれた君。 ちっとも苦痛じゃなかったよ?それどころか…君の事が少しだけわかったような気がするもの。 一生懸命私を求めてくれていた事が。君の真摯な心が。 「このアルバム、あんたにやるよ」 「でも…大切なものじゃない?」 「いい。あんたが手に入ったから。今からでも遅くないだろ?あんたの記憶に刻み付けるのは」 「ありがと…布椎君」 アルバムを胸にしっかりと抱き締める。 「どうでもいいけど…その"布椎君"だけはやめてくれ」 「でも…他に呼び方わからないし、恥ずかしいよ…」 「昔みたいに"闇ちゃん"でいいだろ?あ、あんた覚えてないのか。それなら"闇己くん"で妥協してやる」 「りょ、了解しました。く、闇己くん」 「よく言えた。ご褒美だ」 甘いキスをひとつ。 なんだか酷く甘やかされているような…。 「余り甘やかさないでよ。調子に乗って我儘言いそうだから」 「構わないぞ?あんたの願いなら何でも叶えてやる」 言い切ったよ…。(苦笑) 「それじゃ、1つお願いがあるんだけど」 「何だ?言ってみろ」 「学校ではベタベタしない事。嬉しくないって訳じゃないけど、色々と弊害が出てくるかもしれないからさ。 これはお互いの為です。2人だけの時ならまだしも学校では普通の友達でね?君のことゆっくりと知っていきたいし」 「う…わかった。出来るだけ善処してみる」 「ありがとvそれからもう1つ」 「もう1つ?キスするなとか抱き締めるなとかそういうのナシだぞ?」 「そ、そんな事言わないよ。あのね…」 「何?」 一呼吸する。 「あのね…お風呂上りに用意されていた下着、あれって誰の?」 「はぁ?」 「だ、だって気になるじゃない。私のじゃなかったんだもの。君って姉妹とかいるのかな?って」 必至に尋ねる私を他所に彼は大笑いした。 恥じを忍んで聞いたのに〜!!(怒) ほっぺたを膨らませて怒る私を笑いながら宥める。 「怒るなよ。あれはあんたのだよ」 「はい?」 「あんたがいつこの家に入ってもいいように、殆どのモノは揃ってるぞ? 部屋も用意してあるし…」 「ちょ、ちょっと待って!私が入るって…」 「そう。あんたが俺の嫁になるって事だ。今からでもいいぞ?俺の周囲は了解済みだから」 「え、えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」 信じらんない!信じらんない!信じらんない!! 「じゃ、お手伝いさんも私の事知ってるの?」 「もちろん。あんたがプリント届けに来てくれたって、木村さん泣いて喜んでたっけ。『私が生きている内にこんな僥倖が訪れるとは思いもしませんでした』ってな」 「…………あはははは」 「あんたの覚悟さえ決まればいつでもいい。俺はそれまで待つ自信あるからな」 確信犯だ。 絶対に確信犯だよ〜!(泣) でも、それでもいいのかな?幸せには違いない。 「悪いけど、今すぐ嫁ぐ気は更々ないよ。まだまだやりたい事だってあるしさ。 もしかしたら君より素敵な人に巡り会うかもしれないし」 「何だと?そんなに可愛くない事言うのか?」 「言うよ。本当の事じゃないか!」 「そんな口は塞いでしまえ!!」 ちょっとぐらい可愛くない事言ったっていいじゃないか。 絶対にそんな事あるわけないんだもの。 君に夢中なんだからさ。(笑) これも惚れた弱みってヤツなんだろうけどね。 いろんな事を知った1日。 嬉しい事、少し悲しい事。 でも、それ以上に幸せになれた日。 甘いキスと強い腕の中に閉じ込められて、今度こそ安堵の眠りに落ちることが出来た。 続
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chapunの言い訳 やっぱり大した過去じゃなかったよ。(トホホ) 次か次の次で終わり!!(←まだ決まってないのか?己) 現在進行形の話にやっと戻ります。(自爆) あとちょっとだけお付き合いくださいね!!(土下座) 非難・クレーム…お待ちしております(滝汗)。m(_ _)m |