恋セヨ乙女 6 - 七地 17歳 - |
肌寒さを感じて目が覚めた。 起き上がろうとするけれど…彼の腕の中にしっかりと閉じ込められてしまっているので諦める。 背中越しに感じる厚い胸板。 ゆっくりと波打つそれが、彼が眠りに落ちているのを物語っていた。 ゆっくりと、彼が目を覚まさないように寝返りを打つ。 眠っている顔も信じられない程綺麗で…うっとりと見蕩れてしまう。 しかしながら…勢いとはいえ、彼とこんな関係になってしまうとは。(苦笑) 家を飛び出してきた時は想像もつかなかった。 「とにかく夢中で…君に逢いたかっただけなんだけどな…」 後悔している訳じゃない。 幸せすぎて…逆に「今」という現実がいまいち認識できていないのかもしれない。 それでも、隣りには君がいる。 紛れもない事実なんだね…。 なんだか泣きたくなった。 どこかで聞いたことのある台詞が頭を過ぎる。 『幸せと切なさは表裏一体なんだよ』…って。 今ならその言葉の意味が理解できそうだった。 信じられない程の僥倖に恵まれてしまうと、失った時の恐怖も一緒に抱え込まなければならなくなるんだと。 でも…それは今じゃない。 始まったばかりなのに、今から怯えていては得られる筈の幸せも逃げていってしまいそうだから。 寂しい考えを振り払うかのように、この幸せを噛み締めるように…彼の額へ口付けを落とす。 「…起きてたのか?」 !!…びっくりした。 さっきまで気持ちよさそうに寝息を立てていたのに。余計な事をして起してしまったようだ。(苦笑) 「ごめん…起しちゃったみたいだね」 「いや。実はずっと起きてた」 「え?」 照れ臭そうに頭を掻きながら、改めて私を片手で閉じ込める。 「あんたが隣りにいるのにさ…寝てしまうのが勿体無くて。目が覚めたときに『実は夢でした』なんて事になったら俺、狂いそうだから…」 「布椎君…」 胸の中が温かい水に満たされる。それは溢れ出して透明な雫となり、私の両目から零れ落ちた。 「泣くなよ。本当の事だからしょうがないだろ。ずっと夢みてたんだ…あんたに触れたいって。誰よりもあんたの傍にいたいってさ」 優しく私の頭を撫でながら、余計泣きたくなるような言葉を紡ぐ。 「今の言葉…もの凄い殺し文句だよ?」 無理矢理笑顔で呟く。 「そうか?今の俺ならどんな恥ずかしい事でも出来そうだぞ?」 言い終わらないうちに"チュッv"と音をたててキスされてしまう。 うひゃぁ〜!想像していた彼とは全く違う行動に、嬉しいやら驚くやら恥ずかしいやら…。(照) 真っ赤になって俯く私に向かって更にとんでもない事を言い放つ。 「あんた…最高だ。想像してた以上にな。 あんなに愛らしい声で鳴くし、そうかと思えば信じられない程乱れる。おまけに額にキスなんて可愛い事もする…よろめかない方が異常だって」 し、信じられない…。 鳴くし?乱れるし?可愛い? 今更ながら数刻前の情事を思い出して、全身を真っ赤に染め上げてしまう。 「な、なんでそんな事いうの!!信じられない…」 羞恥心から思わず本気で泣き出してしまった。 穴があったら入りたい。(泣) 無我夢中だったから、自分がどんなあられもない姿を晒していたか想像出来ないのだ。 「ごめん…調子に乗った。もう泣かないでくれ…」 怯えた子供のような視線を投げかけながら、私の涙を拭う君。 「もう。恥ずかしいからそういう事は胸の中で呟いてよね?」 「わかった。これから気をつける…許してくれるか?」 おずおずと言い募る君の姿が可愛くて、頭を撫でてしまった。 「怒ってないよ。ちょっとびっくりしただけ」 「良かった。せっかくあんたを捕まえたと思ったら逃げられるんじゃ洒落にならんからな。今までの苦労が水の泡だ…」 なに? 今までの苦労って…。 訝しげに見つめると『しまった!』という顔をする彼。真っ直ぐに、有無を言わさず見つめつづけると根負けして話始めた。 「俺さ…ずっとあんたの事見てたんだ」 「ずっとって…?」 私の背中に枕を入れて聞きやすい体制にしてくれる。勿論彼の腕の中だけど。 「もう5年か。あんたがこの家の前の道を通るようになってからずっと」 「そんなに長い間?」 「ああ。あんたが眼鏡を掛け始めたのも、自転車で学校へ行くのも、毎朝庭木を眺めているのも…知ってる。 「君は…私が"七地健美"だって事をずっと前から知っていたんだ…」 驚いた。そんなに昔から私の事を見ていたなんて、知っていたなんて。 でも、それなら何故声をかけてくれなかったんだろう? 素直に質問をぶつけてみた。 「それは…」 急に口篭もってしまう。 そんなに言い辛い訳でもあるのだろうか? 私を気遣ってくれているのかもしれないが、ここまで聞いたのに確信を知らないのは歯痒い。 そして、君の事を知るチャンスを無駄にしたくない。 「どんな事でもいいから話して?君は私の事を知っているかもしれないけど、私は君を知らないに等しいのだから。 些細な事でもいい。君の事を、君が私に対してどんな思いを抱いていたのか…教えて?」 優しく、それでも切実に呟いた。 「いいのか?余り…楽しい話じゃないかもしれない。大体、あんたが昔の事をどの程度覚えているのか…俺にはわからん。 この話をしたら、あんたが哀しむかも知れない。俺を…嫌いになるかも知れない」 「そんな事ない。私を大切に思ってくれているのなら…話して?」 それでも逡巡している…しばらくの沈黙。 何かを吹っ切る様に顔を上げると、寂しげに彼は微笑んだ。 「そうだな…ずっと、あんたと一緒にいたいなら避けては通れない話だ。恐がっていてもいずれ分かる事だし。直接俺の口から話した方がすっきりする」 それから私は、ひたすら注意深く彼の言葉に耳を傾けた。 続
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chapunの言い訳 ちょぴっとエロ風味?(爆) やっとここまで来た。 七地と闇己の過去に、いったい何があったのでしょう?(苦笑) 大した事ないっちゅうの。(己ツッコミ) もうちょっと引っ張りますよ〜。 非難・クレーム…お待ちしております(滝汗)。m(_ _)m |