恋セヨ乙女 5
- 七地 17歳 -


 「木洩れ日」
music by VAGRANCY様








とりあえず脱衣所を出るが、これから何所へ行ったらいいのかわからない。
キョロキョロと左右を見渡すと、ヒラヒラと動く手招きが見えた。
その方向に広い廊下を歩いていくと、私と同じような格好をした彼がいた。

私が近づいてくるのを確認すると、彼はスタスタと歩いていってしまう。
素直に後ろについて行くと、階段を昇りすぐにある大きな一枚板のドアを開けて中に入ってしまった。

私も入っていいのかイマイチ理解できず、そのまま様子を伺っていると

「どうした?入ってこいよ」

誘う声が聞こえた。
おずおずドアを開くと、どうやら彼の部屋らしかった。



シンプルな部屋。
建物の外観からは想像出来ない、北欧風のすっきりとしたデザインの家具に囲まれたインテリア。
無垢の杉板で出来たフローリングが清清しい香りを放っていた。

白木とスチールを組み合わせたテーブルの上には、お手伝いさんが運んできたであろう冷たい飲み物と果物が並んでいた。

「適当に座ってくれ」


クッションを1つ投げ渡すと一人がけのソファーに腰を沈めてしまう彼。
テーブルを挟んで彼の正面になるよう、床に腰を降ろした。





「で、あんたはどうしてあんな所で濡れ鼠になっていたんだ?」


単刀直入な質問。
強い視線で私の思考を絡め取る…今更逃げられないか。
覚悟を決めて、口を開いた。


「あの日…」
「あの日?」

緊張する。深呼吸を1つして気合を入れた。

「君から眼鏡を受け取った日だよ。あの後君、怒って行っちゃったでしょ?謝ろうと思っても学校で君に会うことが出来なかったし…」
「それでわざわざ誤りに来たっていうのか?」

呆れ顔で呟く彼。

「…それもある。」
「それも?"も"って何だ?」

ちょっと考えてから、言葉を選びながらも答えた。

「毎日、君の事を考えてた。
どうしてだかわからないけど…こんな事生まれて初めてで。誰かに執着するっていうのか…上手く言えないけどさ。
とにかく頭の中が君だらけで、落ち着かない。
きちんと謝ってないからかと思ったんだけど…どうやらそうでもないみたいだし」
「………」


呆れちゃったかな?
自分でもそう思う。言っている事が支離滅裂だから。(苦笑)
でも正直な気持ちだから仕方ない。


「…君に会ったのはあの雨の日が初めてのはずなんだけどさ、何だか懐かしいの。
君の事を思う度…胸の奥があったかくなる。
初めて見た木洩れ日みたいにキラキラしてて、少し切なくなる。
どうしてだろうね…」


アイスティーに手を延ばして、一気に飲む。
緊張していたのかもしれない。喉がカラカラだった。

真っ直ぐに私を見つめつづける彼。
逸らされない視線が何だか痛かった。
しばらくその状態が続いたかと思うとおもむろに立ち上がり、大きな机の引出しをゴソゴソ漁り始めた。

余りに突拍子もない私の発言にキレちゃったかな?
今日は空笑いばかりだな…そんな事を思っていると、振り返って何かを差し出した。

「これって…」

木洩れ日の下、幸せそうに微笑む幼子が写った写真だった。
それは…私のアルバムの中にも入っている。
紛れもなく、被写体は私で。

尋ねたい事は山ほどあるのに…驚きで声が出ない。
そんな私の気持ちがわかるのか、ポツポツと彼は語り始めた。



「これ…家の庭で撮った写真なんだ。あんたは覚えていないだろうけど」


私の手から写真を取り戻す。
愛しそうに眺めて微笑む彼。


「3歳くらいかな?俺の中で一番古い記憶。木洩れ日の下で幸せそうに微笑むあんたの顔だ。
その笑顔が眩しくて…今でも鮮やかに思い出すことが出来る。
その頃から俺とあんたは出会っていた…」
「ごめんね、私よく覚えてないみたい。でも納得いったよ。
姿形は変わってしまっても、君は君なんだと私の心は理解していたんだね。
多分、その頃からずっと…」


やっと理解できた。胸の中にかかっていた霧が晴れていくのを感じる。
君と出逢った頃から…多分私の気持ちは変わっていなかったんだろう。

長いブランクはあったけど、君ともう一度出会えた事で改めて灯った想い…。


「ずっと…って。何だよ?気になるだろ」


軽く睨んで呟く君。
学校では見せない年相応の表情。とても嬉しくて自然と言葉が零れてしまった。


「ずっと君の事が好きなんだな〜ってね。これなら君に対する執着心や想いにも納得できるからさ」


言ってしまった後に恐ろしい程の羞恥心が芽生えた。
沈黙が支配する空間、俯いてしまった彼…聞いていない訳ないよね…。

嬉しくって、舞い上がってとんでもない事を口にしてしまった。
彼の迷惑・後先考えずに。


「ごめんごめん。今の聞かなかった事にして。何となく言っちゃったみたいだから…」


慌ててお茶らける。
そうでもしないと居たたまれなかった。


「…何となく言える事なのか?あんたにとっては」


いきなり立ち上がると跪き、私の事を抱き締めた。


「俺、すげー嬉しかったのに」


声が震えている。
表情は伺えないけれど…伝わる鼓動の激しさから彼の照れがわかった。

私の心拍数も急浮上する。
何が起きたのかまだ頭が理解していなかった。



空間に広がるのは2人の忙しない鼓動だけ。
驚きの為しばらく動けなかったが、やっと頭が現状認識をし始めた。

耳元に感じる彼の呼吸音。
伝わる鼓動と体温…そのどれもが心地良かった。


やっぱり…君に恋してたんだ…。


ゆっくりと腕を彼の背中に回す。
驚いて一瞬肩をビクンとさせたけど、私の腕が回ったのを確認すると彼の腕にも改めて力が込められた。


「ずっとこうやってあんたの事を抱き締めたかった…」


切なげな呟き。
名残惜しそうに身体を解き放つと、私の顎を捕まえた。


「ずっとあんたを見ていた。触れたかった…」
「布椎君…」


重なる影。
触れるだけの羽のようなキス…。
何度も何度も降りてくる。
飽きるまで繰り返されるだろう口付けに、甘い陶酔感に私は浸っていった…。










chapunの言い訳

やっと甘くなってきた。(苦笑)
ここまで辿り着くのにどうしてこんなに時間かけるんだ?己…(自爆)
もうちょっと続きます。

一気に書くよ〜!!(馬鹿)

非難・クレーム…お待ちしております(滝汗)。m(_ _)m






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この背景素材は 歪曲実験室様 からお借りしてます。