恋セヨ乙女 3 - 七地 17歳 - |
視線から逃れるように校舎を後にする。 今日は梅雨の中休みらしく日差しが降り注いでいるし、幸い学内の敷地は無意味に広い。 あまり人目につかない木陰のベンチに2人で落ち着いた。 彼は黙ってお弁当の包みを広げる…現れたのは3段重!! 「凄い!普通のお弁当がこんなに豪華なんて…う、羨ましい」 心からの叫び。(苦笑) いつも学食や購買のパンで済ませてしまう私にとっては特注幕の内以上♪老舗料亭の懐石コースv 目を輝かせている私に向かってお箸を差し出しながら彼が呟いた。 「ほら、食べろ。今から買いに行っても目的のパン売り切れかもしれないだろ?」 「本当に食べていいの?」 「どうせ1人じゃ食いきれない。遠慮するな」 「それでは、お言葉に甘えて…いただきます♪」 極上料理に舌鼓を打つ私を面白そうに眺める彼。 私が彼のお箸を使ってしまっているから、ときどき素手をのばしておかずを摘んでいる。 箸の動きを止める事無く私は本来の目的を問う。 「あのさ、食べながらで申し訳ないんだけど。私に用って何かな?」 「あんたさ…俺の事覚えてないのか?」 「はい?覚えてないって…布椎君3日前に転入してきたばかりじゃない。それからならきちんと記憶にあるよ」 「……」 ……怒ってる。 さっきまでと殆ど表情は変わっていないけど、なんとなく分かってしまう。 逸らされない漆黒の瞳が彼の心を物語っている。 しばらく私の顔を見つめると、ポケットの中から何かを取り出し差し出す。 素直に包みを受け取ると『開けてみろ』と言われた。 丁寧に包装された包みを開くと…… 「あ……」 私の眼鏡。この間壊されてしまったものだった。 壊れた眼鏡を拾う事なく、逃げるように立ち去ってしまったんだっけ…。 思わず苦笑してしまう。 まさかあの「飛び降り君」が目の前にいる彼だったとは。 曲がってしまったフレームは綺麗に修復され、レンズも入っている。 真新しい商品と思うほどに。 「君だったんだ。全然気付かなかったよ。ごめんね。私極度の近視だから眼鏡がないと10cm先のモノもろくに見えないから」 「やっぱりな。俺はあんたの事すぐに分かったのに」 しょうがないとでも言いたそうに溜息を吐く。 「でも…こんな新品同様にしてもらっちゃって。申し訳ないって言うか」 「俺が壊したんだから問題ない。迷惑かけたな」 「ううん。ありがとう。結構気に入っていたんだ本当は。でも余りに長い間使っていたからあっちこっちガタがきてて。こまめに修理に出していたけどそろそろ寿命って眼鏡屋さんに言われてたの」 「その眼鏡のお陰であんただってわかったんだから…」 「え…」 どういう意味だろう? 『しくじった!』と言わんばかりの表情で顔を背けてしまった彼。 多分、これ以上問い質しても答えてくれそうにはない。 ま、いいか。 お気に入りの眼鏡は綺麗になって戻ってきたし、彼の事がほんの少しわかった気がするから。 美味しいお弁当もご馳走になったしね。 新しく買いなおした眼鏡を外し、慣れ親しんだフレームをかける。 やっぱり一番しっくりする。 「凄く嬉しいかも。本当にありがとう」 「…良かった」 木洩れ日の淡い日差しを浴びながら微笑む彼。 まるで一枚の絵画のようだった。 ぼーっと見蕩れてしまい思わず箸を取りこぼしてしまった。 「くっ…あんた…結構抜けてるよな」 笑うのを必至でこらえているらしい。目尻に笑い涙が浮かんでいる。 「酷いなー。本当の事だから仕方ないけどさ。一応女の子なんだからもうちょっと言い様があると思うんだけど」 「素直な感想だ。それも仕方ないだろ」 「何だか君って見た目の印象と全然違うかも。結構意地悪だぞ?」 私の言葉に反応する。強い調子で言った。 「見た目だけで何がわかるんだ?遠くから眺めているだけで全てわかるなら言葉なんて必要ないだろ。あんたもそういう色眼鏡を持っているのかよ」 「そんなつもりじゃ…」 「まあいい。とりあえず用は済んだ」 そう言うと広げていたお弁当を手早く纏め立ち上がってしまう。 「待ってよ。気分悪くしたなら謝る。悪気があって言ったんじゃないの」 「そうだな。誰も悪気があってジロジロ人を見たり噂を流したりはしないんだろうな」 捨て台詞を残して立ち去ってしまった。 ベンチに1人残された私。 なんだか凄く哀しかった。 彼のいう事は最もだった。 綺麗な顔をしているだけで興味の視線を注がれ続けるのはどんな思いなんだろう? そんな気持ちを抱えつづけるって辛いと思う…。 自分を守る為に周囲に壁を張り巡らせているの? それって…すごく寂しいよ。 暫くの間ベンチで彼の事をつらつらと考え続けた。 私がそういう風に思うことも彼にとっては煩わしいに違いないと思うけど…考えを止める事が出来なかったから。 他人にこれほど興味を持つなんて…生まれて初めてかもしれない。 今までは自分の事だけで精一杯だったから。 意を決して教室に戻る。 彼とゆっくり話してみたいと思ったから。そしてきちんと謝りたいと。 でも、私の目論見はまんまと外れた。 教室には彼がいなかったから。 クラスにいた子達に彼の事を尋ねても「帰ったらしい」という返事ばかり。 それよりも「彼と何してたの?」「用って何だった?」という質問ばかり。 適当に受け答えすると自分の席に戻る。 「もったいぶるなー!」という声が聞こえるが気にしない。 彼の席を見る。荷物はない。 謝りたかったのに…。 翌日もその翌日も彼は学校に現れなかった。 それとなく担任に尋ねるが、「用があるらしい」というとんでもない答えが返って来るだけだった。 普通の高校生が「用がある」ってだけで休み続けられるなんて。 別に私が知らなくてもいい事だけど、彼って分からない事だらけだ。 でも、こもままモヤモヤした気持ちを抱え続けるのは嫌。 思い立ったが最後、後先考えずに行動するのが私の短所であり長所。(苦笑) 授業で配られたプリントを届けるという口実を無理矢理作った。それも他のクラスメートに見つからないように。 私にしては大胆な行動だ。「目立たず騒がず」がモットーなのにね。 プリントをカバンの中に忍ばせ、自転車にまたがり学校を後にした。 見慣れた大きな古い門。 『布椎』という立派な表札が出ていた。 そう…彼の家の前。 通学路の途中だし、同じクラスなんだから問題ないとは思うけれど…やはり気後れしてしまう。 余りにも立派だから。(苦笑) 門の脇に自転車を止め、恐る恐るインターフォンを押す。 『はい。どなた様でしょうか?』 女性の声が聞こえる。 勇気を出して声を出す。 「私は七地健美と言います。闇己君と同じクラスの者です。お休みが続いているのでプリントを届けに来ました」 素直に"心配だから"って言えば済むのに。何だか恥ずかしくて言えなかった。 「闇己さんのお友達の方でいらっしゃいますか。すぐに門を開けますのでお待ちくださいませ」 どうやらお手伝いさんだったらしい。これだけのお屋敷なら頷ける。 暫くすると内側から門が開かれた。 「申し訳ありません。ただ今闇己さんは外出中でございます。お帰りは夜になると思われますので宜しければプリントをお預かりさせて頂きますが」 初老の女性は丁寧に頭を下げてくれた。 「そうですか。病気じゃないようなので安心しました。それじゃ、これお願いします」 「確かに承りました。わざわざ足をお運びくださいましたのに申し訳ございません」 「気にしないで下さい。この道私の通学路なんです。闇己君に宜しく伝えてください」 丁寧に頭を下げると私は再び自転車を漕ぎ出した。 拍子抜け。 そうだよね。先生『用がある』って言ってたじゃない。 家にいるなんて保証なかったのに…期待していて損した気分。(苦笑) しょうがない事とは思いつつも、なんだか心残りのまま家路を急いだ。 その夜、我慢できずに家を飛び出してしまった。 続
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chapunの言い訳 まだ続きます。 もう、止まる事を知りません!(自爆) 一気に書くよ〜!!(馬鹿) 非難・クレーム…お待ちしております(滝汗)。m(_ _)m |