恋セヨ乙女 2 - 七地 17歳 - |
私は所属しているバレー部の朝練に向かおうとしていた。 どちらかと言うと学内では"弱小"の部類に入る部活だったけど、みんな純粋にバレーボールを楽しんでいたし向上心もそこそこ持っていたから朝練習も苦痛じゃなかった。 普段は自転車で通学していたけど、生憎の梅雨空。 傘を差して自転車を漕ぐのは得意じゃないので、いつもより早めの時間に家を出ていた。 自宅から学校までは徒歩でも20分程度の道程。最寄のバス停から学校前を通る路線バスも走っているが、歩けない距離じゃない。 「偶にはいいかもね」 そんな気分でのんびりとお気に入りの傘を差しながら歩きだした。 前々から気になっていた大きな家の前に差し掛かる。 この辺りは豪邸が立ち並ぶ都内でも有数の地域だけど、一際目を惹く立派な家。 背の高い塀から覗く木々は季節によって色々な姿を見せてくれていた。 私はその風景がとても好きだった。 春は満開の櫻、夏には生い茂る深緑、秋は美しい紅葉、冬は青々とした常緑樹と枯れた木々のコントラスト…どれを取っても絵になる。 ゴミゴミした都会の喧騒の中、幻のように美しかったのだ。 雨に霞み、緑が薄らいで見える景色もなかなか見事だった。 頭上を見上げながらゆっくりとその家の前を通り過ぎようとした時だった。 突然、大きな『何か』が目の前に降って来た…人だ。 余りの驚きに声も出ず、傘を放り出してその場に尻餅をついてしまった。 「悪い!怪我してないか?」 どうやらあの高い塀を越えてきたらしい。 余程急いでいたのか、私の存在を確認する前に飛び降りてしまったようだ。 呆然とする私を立たせ、怪我がないか彼が確認している間に少しずつ冷静さを取り戻してきた私。 何とか口を開く。 「大丈夫です。ちょっとびっくりして尻餅ついちゃっただけですから」 「そうか。それなら安心だ。でも…」 「でも?」 一瞬詰まる彼。申し訳無さそうに呟いた。 「それじゃ学校いけないよな…」 ???…あっ。 「制服…濡れちゃってますね…あはは…」 「それに、あんたの眼鏡、割れてるし」 言われて初めて気が付いた。 何だか視界が悪いと思ったら…眼鏡かけてない。 足元を覗き込んでみると、片方のレンズが粉々に割れ、フレームが思い切り曲がった眼鏡の残骸を発見する事ができた。 「俺が踏みつけたみたいだ。申し訳ない」 深深と頭を下げた。 極度の近視の為に相手の表情を伺う事は出来ないけれど、心底誤ってくれている気持ちが伝わって来るのがわかった。 「怪我がなかったからいいです。もう、こんな事しちゃ駄目ですよ?ぶつかったら貴方も相手も大怪我しちゃいますからね。」 「ああ、二度としない」 その言葉を聞いて何だか安心してしまった。彼の声はとても耳に心地良く響いてくるからかもしれない。 眼鏡は壊れちゃったけど、そろそろ新しいの欲しいと思っていたから良しとしよう。(苦笑) 制服だって着ているうちに乾くだろうし。問題なし。 私は根っからの楽天家なので、とりあえず問題が解決したと思ったら後腐れがなかった。 「それじゃ、私学校遅れちゃうんで行きますね」 傘を拾うと荷物を抱えなおし、一礼してから歩き出す。 慌てたのは彼の方。 私の肩を掴んで引き止めた。 「このままじゃ風邪引く。それに眼鏡なかったら授業こまるだろ?ちょっと待て」 「大丈夫ですって。私、結構身体の作りが頑丈なんです。それにコンタクト持ってますからご心配なく。貴方こそ塀を飛び越えてしまう位だから何か急ぐ用事があったんじゃないんですか?」 「それは…」 私の問いに黙り込んでしまう。何かマズイ事言っちゃったのかな? 何だか居たたまれなくて、私は改めて頭を下げると一目散に駆け出してしまった。 そのまま学校へ行き、問題なく1日を過した。 翌日、季節外れの転校生がやって来た…それが彼だったのだ。 担任からの紹介が済むと、そっけない挨拶だけして空いている席に座る。 クラス中から興味の視線が不躾に注がれる事に何の頓着もないらしく、授業の用意をするとそのまま教科書に視線を降ろして周囲から完全に自分を隔離させてしまった。 その時点で私は彼が昨日の人だと気付いていなかった。眼鏡をかけていなかったから顔もよくわからなかったし、あんなに短い挨拶の声だけじゃ同一人物と確認できなかったから。 ただ、素直に持った感想は…『信じられない程綺麗な男の子だなー』というもの。 休み時間もクラス中の女の子が遠巻きに彼を見つめているのにも完全に無視。 男の子達が彼の様子を伺いに近づいてみるも、彼から発せられるオーラ?みたいなものに圧倒されて質問できずに戸惑うばかり。 彼は完全に自分以外の人間の存在を気に留めていないようだった。 私も興味が無かったと言えば嘘になるけど、あからさまに興味丸出しっていうのも何だか失礼な気がして。 いつも通りに学校生活を送ろうとしていた。 彼が転校してきてから3日目、突然彼は私に声をかけてきた。 教室中がざわめく…そりゃそうだ。 私は目立つタイプの人間じゃない。 広く浅く付き合っている友達は沢山いるけれど、特定の誰かといつも一緒にいる事は苦手。 運動神経も至って普通、勉強も人並み程度(だと思う…)。女の子なのに可愛らしいモノを好む訳でもなく、髪もショートで眼鏡っ子。 目立たず、騒がず、その場の雰囲気に溶け込むように生活するのが常だった。 それが…青天の霹靂。 たった3日で学校中の人が興味を持ってしまうような美形の男の子に向こうから声を掛けられるなんて。 午前中の授業を終え昼食を売店に買出しに行く為席を立った途端、私の目の前に立ちふさがった。 女にしては身長が高い部類の私でも見上げなければならない。180cmはあるかと思われる。 とりあえず当り障りのないように尋ねる。 「どうしたの?布椎くん。私急がないと。お菓子パン売り切れちゃうんだよね」 誰もが遠巻きに見ている彼に面と向かって話せる私を周囲の人は溜息まじりに見つめている。 しょうがないじゃない。彼の意図がわからないし、実際お昼を食いっぱぐれる可能性が高かったんだから。 真っ直ぐに彼の顔を見つめる。 まじまじと見れば見るほど綺麗な顔。さっきまで見ないようにしていた所為か、ここぞとばかりに視線を注いでしまった。 ふいっ…… あ、視線外されちゃった。 そうよねー。向かい合わせでじっくり見られたら気分いい訳ないもの。(苦笑) 「ごめんごめん。君が余りにも綺麗な顔してるから不躾に見つめちゃったよ。気分悪くさせちゃったなら謝るね。用がないなら本当に売店行きたいんだけど」 素直に謝って彼の脇をすり抜けようとしたら、いきなり肩を掴まれた。 怒らせたかと思い慌てて振り向くと、真っ赤な顔して呟く。 「恥ずかしい事平気な顔して言うな。用があるからあんたの目の前にいるんだろうが」 …どうやら怒っているのではなく照れているらしい。 余りにも美形で表情の変化が読み取れないから困ってしまう。でも、普通の男の子って感じがしてなんだか嬉しくなった。 「それじゃ、売店に歩きながらの話しでいいかな?このままだとお昼食べられなくなりそうだし」 「昼飯?俺の食えばいい。どこかゆっくりと話せる場所はこの学校にはないのか?」 「"俺の食えばいい"って。君は面白い事いうね。育ち盛りの男の子の台詞だと思えないよ。とにかく行こうよ」 「ああ…」 私が促すと、彼は自分の席から大きな包みを持ち出してきた。 「まさか…"お弁当"じゃないよね?」 恐る恐る尋ねてみると平気な顔で 「そうだが。何か問題あるのか?」 と逆に突っ込まれてしまう。(苦笑) いろんな意味でちょっとズレた感覚を持っているみたいだな。 沢山の人の視線を浴びながら私達は教室を後にした。 続
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chapunの言い訳 続き物になってしまいました。(泣) 話しを短く纏めるという機能が私の脳味噌には備わっておりません。(自爆) 大した話でもないのにねー。(トホホ) とにかく『普通の恋愛♪』を目指して書いております。 甘甘な表現が出てくるのはいつの事やら…。(遠い目) 非難・クレーム…お待ちしております(滝汗)。m(_ _)m |