deception
- いかさま2 -







櫻里乃原高校学園祭当日。
見事に晴れ上がった空が今日と言う日を祝福しているかのようにさえ感じられる…。

『何故?』って?
言うまでも無い。それは…『極上七地の姿』を拝む事ができるから♪


森本に学園祭参加の意思を伝えてしまってからと言うもの…どうやって七地を引き釣り出すか俺は考えた。
熟考した挙句…いつもと同じ手を使うしか思いつかなかった。(泣)

まぁ、どんな手段にしろ七地がその気になってくれさえすれば問題ないのだから、形振り構ってなんぞいられない。



それほど…『あの衣装』を身につけた七地を見てみたかったから。





□■□






学園祭1週間前、俺は七地を呼び出した。

あいつと恋人同士として付き合うようになってからは、公務のない週末にあう事が定番となっていた。
しかし、その日は金曜日。
七地は平日には思い切りバイトを入れまくっている。週末となれば2つや3つの掛け持ちは当たり前。
それを知っているからこその選択。(邪)



『どうしたの?闇己君…』

いつも通りの優しい声が耳に心地良く響く。
声を聴くだけでも心が晴れやかになるとは…恐ろしき七地マジック?!

俺は思い切り切なさを込めた声で携帯の向こう側にいるあいつに向かって囁いた…。


「あんたに…会いたい」
『え?でも…』
「そうだよな…悪い。今日はバイト掛け持ちの日なんだよな。聞かなかった事にしてくれ…」
『大丈夫。バイトは誰かに代わって貰えば済むけど、闇己君の話を聞けるのはおれだけだと思いたいから…』
「七地…」
『とりあえずバイト先に連絡入れてからそっちに向かうよ。君の部屋でいいかな?』
「…ありがとう…」
『それじゃ、待っててね』


良心が咎めないといったら嘘になる。
俺の願い・望みは何でも叶えてくれようとする七地…底なしの優しさで俺を包んでくれるのが素直に嬉しかった。

……が、まんまと引っかかってくれた♪
こんなに簡単に誘いに乗られてしまうと、それはそれで心配になる。
どんなヤツにでもホイホイとついていってしまう危うさを七地は持っているから。

ちょっと甘い声をかけられたり困った声を聞いてしまえば…!!(怒)

七地が来るまでの間、1人で勝手に妄想して勝手に怒り出していた……。





一時間後、七地の気配を感じた。
最寄駅に降り立った頃から感じることの出来る柔らかい気。
降り注ぐ木洩れ日のように温かく、全てを包み込むような包容力を持った極上の気だ。
逸る心を押えつつ、七地の到着を待つ。

10分後、呼び出し鈴が鳴った。
ゆっくりと立ち上がり玄関へと迎えに出る。


「お待たせ。出来るだけ急いで来たんだけど…」

肩で息を切らせながら微笑む七地。
どこまでも一途な七地を…思わず抱き締めてしまった。


「ど、どうしたの?」


慌てて後ろ手に玄関戸を閉める七地に俺は苦笑する事しか出来ない。
"あまりの可愛さに抱き締めた"なんて言ったら本気で怒るだろうから。(苦笑)


「あんたに…会いたかったんだ」


それだけ言うと、部屋の奥へと誘った。


七地のいれてくれた珈琲を飲みながら、話し出すきっかけを探す。
こういう時、七地は無駄な言葉を紡ぐ事などしない。
俺が話し出し易いように…辛抱強く待っていてくれるのだ。

まだ熱さの残る珈琲を一気に煽ると覚悟を決めて話し出した。



「俺さ…今まで学校って勉強しに行くだけの場所だと思ってたんだ。立派な宗主になる為には文武両道でなければならないって…父さんに言われてきてたから。勉強も公務の1つ位にしか捉えてなかったし
だから友達なんて作る事すら頭の中になかった」

「うん」

「でもな…最近になってそんな考え方が"ちょっと違うかも"って思える様になったんだ…多分、あんたのお陰だと思う」
「闇己君…」


感極まって泣きそうな顔をする七地。


「来週家の学校で学園祭があるんだ。俺、そんな行事があることすら忘れてた。
でもな、同じクラスに面白いヤツがいて俺に言ったんだ…"最後くらい、一緒に参加してみないか?"ってな。
正直嬉しかった。
今まで俺に話し掛けてくる奴らって興味本位でいろいろ探り出そうとするばかりで、うざいばかりだったのに…そいつは違うんだよ。俺のこと…ずっと気にかけてくれていたらしいんだ。
俺、そいつとずっと同じクラスだった事にすら気付かなかったのにな」

「…素敵な友達が増えたんだね。おれ…何だか自分の事みたいに嬉しいかも…」


とうとう泣き出してしまった。
透明な雫を惜しげもなく零す瞳。とても綺麗で…思わず抱き締めてしまった。
"あと少し…もう一押しだ"
内心そんな事を考えながら。(苦笑)


「それでな?…学生生活最後の学園祭だから…あんたにも来て欲しいんだ。あんたの知らない俺の学校での姿を…あんたの目に焼き付けて欲しい」

「もちろん、喜んで行かせて貰うよ。1度でいいから…君の学校での姿見てみたかったんだ。願ったり叶ったりだよ」

無理矢理微笑む姿がいじらしい…このまま即行押し倒してしまいたい欲望を強引に押し留める。
最後の一押しが残っているから。

「ありがとう七地。でも…できればあんた1人で来て欲しいんだ。今回ばかりは他の誰かに邪魔されたくないから。あんたと学校での思い出を作りたいからさ…」
「うん…わかった。夕香には絶対バレないようにするよ」


おっしゃぁぁぁ!!
これで万事OKだ。
心置きなく押し倒せる♪(…何だか今回の目的とズレてるか?)


「あんたが…好きだ」


極上の微笑みプラス殊更甘く耳元で囁き…そのまま暗転♪





□■□






そろそろ約束の時間だ。

校門の前、キョロキョロと左右を見回すと…
来た。

体のラインが分かりずらいようなデザインのパーカーとジーンズ。
いつも以上にラフな服装で来るように俺が頼んでおいたから。(笑)


「お待たせ。少し早めに来たつもりだったんだけどな〜」


照れ臭そうに頬を赤らめて呟く七地。視線が集中する。
"そんな笑顔を振り撒くな!!こんな極上笑顔を他のヤツなんかに見せるな!!"
心の中で邪な妄想が駆け巡るのをひた隠し、校内へと案内した。



教室前。
入り口にはでかでかと看板が立っている…『コスプレカフェ - deseption - 』

「ふ〜ん、面白そう!"いかさま"だなんて、洒落てるね♪」

何も知らない七地を尻目に、教室中…いや周囲にいる奴ら全員が七地の姿を凝視している。
すかさず歩み寄る黒い影…"謎の医者?!"姿の森本だ。


「おう、布椎!お連れさん来たのか?初めまして、同じクラスの森本です。当店のマスターも兼ねてます♪」
「初めまして。七地です」

丁寧にお辞儀までする…親代わりか? 思わず苦笑する俺に向かって森本は早速切り出した。


「もう準備は整ってるから、そろそろ着替えてくれないか?七地さんはこっち。別室用意してあるからさ」
「七地さんはこっちって…どういう事?闇己君?」


慌てて俺に詰め寄る七地の耳元で俺は素早く囁いた。


「あんた…今日は1日俺の"彼女"な?」
「………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


情けない雄叫びを挙げる七地の背中を無理矢理押しながら別室へといざなう。


「おい、森本。七地が着替え終わるまで誰も近づけるなよ。例え女子でもな」
睨みを利かせながら呟く。

「もちろん了解してるよv着方の解説図が置いてあるからそれを参考に着替えてみてね!そうそう…タイツも忘れないように♪それじゃ、後で〜!」


右手を振りながら爽やかに森本は去っていった。
残されたのは…怒りに肩を震わせる七地と俺。


「……ど、どういう事だよぉぉぉぉぉ!!」
「話せば長い。俺も準備あるから。それ、着ておいてくれ。後で迎えにくるから」
「酷い!だまし討ちじゃないか!」
「"だまし討ち"?…あんた言っただろ?"君の学校での姿見てみたかったんだ"って。間違いなくコレもその姿の1つだぞ?ついでにあんたにも協力してもらって、より楽しいものにしたいだけだ」

悪びれもせず言い放った俺に向かって七地の罵声が轟く。

「鬼!悪魔!念よりたち悪いじゃないか!」
「それじゃ、俺行くから。その衣装、俺のとセットになってるらしいぞ?楽しみにしてろよ?」

別室を後にする俺の背中に吐きかけられるのは…七地の切ない叫び。(苦笑)



「ひとでなし〜!!!!!」










chapunの言い訳

うへへへへ〜♪まだコスプレしてません。(爆)

七地の性格を知り尽くしている闇己だからこそのセコイ口説きですね〜。
それにまんまと騙される七地って…正しく『惚れた弱み』です。(苦笑)

次から『コスプレ編』もとい、『学園祭編』が始まります♪(爆)
どんな衣装を2人はきているのでしょうか?
好ご期待♪♪♪


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