deception
- いかさま -



「おーい、布椎!」

にやにやと笑いながらクラスメートの森本がやってくる。
憮然とした態度でみやると、さも面白そうに笑いかけてくる。
クラス中の視線がこちらに向けられるのを感じた。


「何だ?」
「あの日の約束、忘れたとは言わせないからな?もう学園祭まで後がないから忠告♪」

あの日の約束…。

「…忘れた訳じゃ…ない」
「それならよかった。クラス中みんなで期待しまくってるんだから!俺のお手製特注衣装も既に仕上がってるし…」
「特注衣装…あいつのか?」
「そうそう♪布椎の隣りに並んでも見劣りしない位気合入れて作ったから」
「見劣りなんかする訳ないだろっっ。あいつは…」
「はいはい、ご馳走様。お前の衣装だって女子がヤバイ位力入れて作ってたからな。なんせ…」
「それ以上言うな。…きちんと当日には連れてくるから」
「了解〜♪楽しみ楽しみvv」


言いたい事だけ言うと、森本は右手をひらひらさせながら教室から出て行った。
俺を遠巻きにして見ていたクラスの他の奴らも、興味を捨てきれてはいないようだ。
クスクス笑う声が耳に届いてしまうから。

普段では絶対に人前で見せる事がないほど盛大な溜息を洩らしてしまった。





□■□






遡る事2ヶ月前、俺はクラス中の奴らに嵌められた。(苦笑)
夏休み直前。
1週間ほど公務の関係で学校を休んでいた俺は久し振りの登校に珍しく気分が良かった。

『布椎の宗主たるもの、文武両道でなければならない』…という父の教えからか、普段は『これも公務の一環』と割り切って通っていた。
その為に大した感慨を持つ事もなく、知識を蓄える場所という意味しかない場所だった。


こんな風に登校する事に楽しみを覚えたのは初めてだった。
そんな自分が面白くて思わず微笑んでいたらしい。
珍しく声を掛けられた。
同じクラスの奴だとは理解できたものの、その時は名前まで浮かんでこなかった。


「お〜い、布椎!!」

呼び止められて振り向く。


「何だ?」
「お前が笑ってる顔見るのこれで2回目だと思ったら、いてもたってもいられなくて走ってきちまった」

にこにこ笑いながらそう話す人物こそ森本だった。

「そんな事くらいで走ってくるなよ」

呆れ気味に呟く俺を他所に大笑いする森本。

「布椎、お前自分が学校でなんて思われてるかしらないからそういう風に言えるんだよ。お前がちょっとでも笑っているような表情してみろよ。それを見た奴は"今日はきっといいことが起こるに違いない♪"ってお前の事拝むんだぜ?」
「はぁ?」
「それぐらいお前が顔の表情だすの珍しいって事。でも今日の微笑みは前回拝んだ時よりちょっと物足りないかな?」

含みのありそうな言い方。何を言いたいんだ?こいつは…。


これまた珍しく興味を持ってしまう。
肩まで伸ばした緩くうねった長髪を襟足の位置で結び、一昔前のべっ甲縁の眼鏡をかけている森本。
俺より身長が5センチくらい高いのに、威圧感というものが全く無い。

纏っている雰囲気が他のクラスメートと違うのか。
興味本位で俺の事を伺うようなそぶりがないのも一因だと思う。
こんな奴が同じクラスにいたのかと、今更ながら不思議に思った。

"話に…のってやるか"


「前に見た時って?」

"しめた!!"とばかりに微笑む森本。
読み間違えたか?俺は…。
そう思ったのは後の祭り…。

「3日前にね。国分寺の駅の近くで凄く楽しそうに笑ってる布椎を目撃♪」
「3日前か?………!!」
「思い当たる節あったみたいだな?」


それって…七地と一緒の時。
珍しく電車で来ると言ったあいつを駅まで迎えに行ったんだ。
急に雨が降ってきたから、持ってきた傘に2人で小さくなって入ったんだ…。

あれを見られていたのか?…マズイ。


「一緒に傘に入っていたの…彼女だろ?そうじゃなきゃあんなに極上スマイル振り撒かないって。布椎の性格じゃ」
「俺の性格って…大体彼女なんかじゃ…」


少しムっとするも、慌てて否定する。
確かに恋人同士ではあるけど、彼女ではないし。
大体なんでこいつに否定しなきゃいけないんだ?別に黙っていてもいい事なのに。
だんだんドツボに嵌っていくような…。


「またまた〜。とぼけるなっちゅうの。眼鏡かけたかわいい子だったじゃんか。ちょっとボーイッシュな感じがお前とピッタリだと思ったけどな」


その言葉にすぐさま反応してしまう…ピッタリ?本気で?


「…そ、そうか?」
「ああ。雰囲気よかったぜ。かなり羨ましかったから」


小さくガッツポーズを決める森本に気付かないほど舞い上がっている俺。

真実…俺と七地が付き合っている事実を人前に晒せないのはそれなりにストレスを感じている。
本当は一目を憚らずに堂々としていたいけど…誰も許してはくれないだろうから。
それ以前に、明るみにする事で七地が傷付くかもしれないと思うと…耐えられない。

一緒に歩いているだけでも『お似合いだ』と言ってもらえた事が素直に嬉しかった。


「マジにお似合いだったよ…そこでだ」


いきなり現実に引き戻される。
"そこでだ"って何だよ!!!

悪びれもせず森本は言い放った。


「ばらされたくなかったら協力して♪」
「はぁ〜?」
「俺ね〜、見ちゃったの!」


優越感たっぷりに森本は囁く。


「な、何を…」
「布椎と彼女が"駅前"で、"人込みの中"、"人目も憚らず"に、"堂々"と"キス"してた所♪」
「!!!!!!!!!」


……………自爆。
あれを目撃したってのか?
どうやって?あんなに小さくなって傘に隠れて、それも人目のつかなそうなビルの裏手でのキス…。
周囲に人がいないかもきちんと確認した。確実に気配はなかった…それなのに!!!

気が動転しそうになるのを必至に堪える。
ここで思い切り認めてしまう訳にはいかない。
七地が男だとばれてしまえば一貫の終わり…。
白を切り通す事もできるが、周りに吹聴されてしまうとそれはそれで厄介な事になりそうだ。

できるだけ平静を装いつつ、是とも否とも取れない反応を返した。
あくまでも答えを認めずに。

「…何をすればいい」
「そうこなくっちゃvv10月の学園祭の催しに彼女と一緒に参加してね♪」
「はぁぁぁぁ?」
「家のクラスは喫茶店やるの。布椎知らなかったでしょ?お前顔綺麗だから客引きにはうってつけ!彼女は部外者だけど、この際関係なし!一緒に客引きやってね〜」
「何でそんな事しなきゃならん?」

怒りの音が聞こえてきそうだ。沸沸と…体の底から…。
それでも必至に笑顔を作る。

「だってさー、学校生活最後の学園祭だろ?お前、今まで参加した事ないじゃん」
「なんで知っている?」
「あはははは。俺、布椎とずっと一緒のクラスだったりして。お前忙しそうだから他の奴の事ほとんど知らないだろうけどさ」

少し寂しそうな笑顔で森本は言った。
確かに…今の今まで森本の存在すら知らなかったのだから。

「最後くらい…みんなで一緒に騒ごうよ。結構面白いんだぜ?クラスの出し物に人気投票あって、最高得票数のクラスには商品出たりするし。ミスコンもあったりさ」


照れ臭そうに呟く森本の姿が…なんだかとても微笑ましかった。
周囲から感心を持たれているのはわかっていたけど、こういう興味の持たれ方なら悪くない。


照れ隠しに殊更ぶっきらぼうな声を出した。


「わかった…。その日は必ず学校に来る」
「ラッキ〜!!じゃ、皆に言っとくわ」
「みんなにって……」


捨て台詞を残して昇降口へと走り去る森本の姿を見送る事しか出来なかった俺。
案の定教室に辿り着いてみれば……





『布椎君ご協力お願いしまーす♥♥♥お友達も必ず連れてきてね♪』





前黒板にデカデカとピンクのチョークで書かれている文字を発見したのだった…。(遠い目)










chapunの言い訳

うへへへへ〜♪趣味に走りました!!(爆)

一度やってみたかった『学園祭モノ』、とうとうやっちゃいました♪
この後も私の悪趣味な世界?!が広がっていく事間違いナシですvv
次は七地が登場します。多分。

初めてオリキャラ出しちゃった。(苦笑)
さすがに学校関係だと闇・七だけって訳にはいかなかったのです。
(単に書ききる技量がないだけなんですけど…トホホ)

ちなみに森本君のモデルは私の女友達です。(爆)



- 小噺部屋 - ・  - 次へ -