廃墟と楽園 5 - 赤楽 28年 - |
「…主上に随伴した禁軍左軍空行師一卒及び和州州軍左右軍黄備15000が合水にて主上探索を務めております。白雉が堕ちていない事実を鑑みまして、逸早く主上の御身を確保せしめる事が先決やと」 「今出来る事はそれしかないであろうな…」 冢宰府に戻ると、浩瀚・遠甫・主だった官吏の間で今後の対策を練った。 柴望から届いた青鳥、延王から届いた青鳥、随時伝えられる陽子探索の進捗状況を頭に置き、今出来るであろう最善の策を考えるが…いかんせん景麒の意識は未だ戻らない。 王気を辿れる唯一の存在に、縋る事が出来ないのだ。 忽然と消えた主と、事件の痕跡…。璧壁と大量の水までもが一緒に消えてしまったであろう事実。 延麒から齎された『鳴蝕』という言葉の意味。 事件から4日。判った事はとても少なかった。 王が不在である事。 鳴蝕が起きた事。 台輔の意識が戻らない事。 そして…数少ない現場に残された物…ダムの要石…に"呪"をかけられたであろう痕跡が残されていた事…。 その呪はとても巧妙な物で、発動するまでその存在は全くもって感じられない仕組みであったと思われる。 相当の力量を持つ仙でないとこのような呪を敷く事は難しいと思われ、陽子探索以外の手段となると、その辺りから手をつける事しか出来なかった。 未だ白雉は堕ちる事なく、梧桐宮の最奥で静かに己の役目を果たす時を待っている…今がその時ではないとばかりに。 浩瀚はしかるべき方策を各府第に伝えると、冢宰府を後にした。 あれから延麒は眠り続ける景麒の傍から離れようとはしなかった。 何かを見透かすように、ただ景麒の顔を一心に見つめていた。 「他国の事にこれほどまでに心を砕いてもらっては、雁州国の民に申し訳が立たない」と、浩瀚は何度も延麒に訴えたがけんもほろろに押し返される。 何よりも…延麒の主である延王自らが、『六太の気が済むまで置いて遣ってくれ』と青鳥を飛ばしてきたのであるから、それ以上たかが冢宰である浩瀚には何が出来る訳でもなかったのだ。 数刻を置いては仁重殿へと景麒の様態を伺いに来る浩瀚に、延麒は首を横に振るばかりである。 黄医の診断はそう重い物ではなく、数日後に台輔の意識も戻られるであろうという簡単な物であった。 失道の様子もなく、ましてや白雉が堕ちている訳でもない。 目の前で繰り広げられた出来事の余りの衝撃に、知らず起こしてしまった鳴蝕に、心身ともにお疲れであるのだろうと。 時が来れば主を求める本能に逆らえず自然目が覚めると…延麒も言っていた。 今回も景麒の臥室を訪なうと、思いがけない人物が延麒の隣に在る事に気付き、浩瀚は慌てて最大の礼をとった。 「堅苦しいのは抜きだ。来い」 重々しく叩頭すると、促されるように浩瀚は室内へと踏み入った。 牀の足元に据えられた床几に腰を降ろすと、目の前に対峙する延王に向って再び頭を垂れる。 延王の隣には、泣き疲れてしまったであろう様子が伺える延麒が、延王の膝に頭を持たれる形で静かに眠っていた。 浩瀚は延麒の眠りを妨げないように声を抑えた。 「して、鳴蝕の抜けていった方角は…」 単刀直入に言った。 事前に延王より浩瀚宛に直で飛ばされてきた青鳥に、蓬山にて碧霞玄君と対面し鳴蝕の抜けた方角を指示頂くとの旨を伝えられていたからである。 鳴蝕の抜けていった方角が判れば、それに従い陽子を探索する方針も取りやすいというもの。 未だ意識の戻らない景麒の復帰をただ待つばかりしか出来ないのでは、何の為の冢宰であろうか。 延王はしばしの間難しい顔をしていたが、静かに言葉を紡いだ。 「鳴蝕とは、麒麟が起こす小さな蝕である事はお主も知っておるだろう」 「…はい」 「小さな蝕とは言え、蝕には違いない。それもわかるな?」 「はい」 浩瀚は次に延王の口から吐き出されるであろう言葉の衝撃に、無意識に覚悟を決めるように息を呑んだ。 「鳴蝕が起きた割には、被害がなさすぎるのだ。泰麒の鳴蝕の件を鑑みると、被害が全く無いと言っても過言ではない状況だ…崩れた璧壁はおろか、溢れ出た水流の痕跡すら残していないのは余りにも妙であるだろう?」 小さく頷く。 それは当初から不可思議に思っていた事だった。 あるはずの物が存在しない違和感はどう考えても拭えない。拭える所か違和感は疑惑となり、疑惑は恐れへと繋がっていくのである…。 陽子が消えてから既に4日。合水沿いの探索に費やされている人員の数は、禁軍・州軍・直訴して己から申し出た民達と合わせて雄に数万は超えている。 なのに、事件の痕跡も何もかもがまるで"消えてしまった"かのように残されていない現実。 「それに…陽子は仮にも王であり神(仙)である。多少傷ついた所で簡単に命を落とす事はないであろうが、跨っていた騎獣はいくらなんでもあのような惨事に巻き込まれれば、な。しかし吉量の死骸すら見当たらないとは…おかしいであろう?」 浩瀚の背筋を冷たい物が駆け上がった…。 「多分、陽子はこちらにいないのではないかと…玄君はそう申しておった。蝕がいずこかへ抜けていった痕跡すらないらしい。その場で降って沸いて掻き消えたかのようであると」 最悪の事態が起きてしまったのであった。 己の膝頭を見つめる浩瀚の顔からはみるみる血色が抜け落ちた。 握り締めた拳が小刻みに震えている。 己の全てで今延王から聞かされた事を『否』としてしまおうとする自身を、理性を総動員して押し留めるのに精一杯で、それ以外の事を考える余裕が浩瀚から抜け落ちた。 怜悧な冢宰と人は口々に彼を呼ぶ。しかし実際は己の内の奥深く、燃え盛る炎を理性という殻で押し留めているだけの、ただの憐れな"人"でしかない事は己が一番理解していた。 大声で罵りたかった。 世界は天より与えられた条理によって成り立っている事は熟知している。 それを与えた存在…天帝…が"在る"というのなら、何故にこのような仕打ちをなさるのかと。 そう遠くない過去に戴国の女将軍が血反吐を滲ませながら叫んだその言葉を、己も吐き出してしまいたかった…。 震える拳をただ見据えつつ、浩瀚は何とか冷静であろうと理性をかき集める。 こうなってしまうと…何よりも先に景麒の意識が戻る事が最重要となってしまった事実に浩瀚は盛大な溜息を零した。 時間ばかりが過ぎていく…陽子の安否を知るものは、白い顔で静かに横たわる景麒のみ…。 祈るような気持ちで景麒の顔を見つめる事しかできない現実に、浩瀚は己の無力さを感じずにはいられなかった。 状況は何一つ変わる事なく、そのまま数刻が過ぎていた。 延主従もそのまま景麒の傍にいる。浩瀚もまた一歩も動けず、景麒の牀の足元に座ったままであった。 いつの間にか日は翳り、女官の燈して行った灯火だけがゆるゆるとその堂室に息づいているようだった。 食事を取る事も忘れ、ただ侍る。 『貴方しか、主上を救える方はおられないのですよ』と、『お前しか、陽子を救えないのだ』と、各々心の中で何度も呟きながら…。 眠っていた延麒がおもむろに延王の膝から起き上がった。 「来る…」 言葉が呟かれたか否や、横たわる白顔が、閉じられた目蓋が薄っすらと震えるのが見て取れた。 思わず立ち上がった浩瀚を制するように延麒の腕が伸ばされて、『台輔』と象った浩瀚の口唇から言葉が発せられる事はなかった。 「景麒、わかるか?」 「延…台…ほ」 酷く擦れた声で呟かれた。延麒は何度も景麒の頭を撫で擦ったのであった。 「聞こえたからな。大丈夫。みんな知ってる。お前、1人じゃないから…な?」 この上もない、美しく慈愛に満ちた笑みを浮かべた延麒を見つめ、景麒はコクンと頷いた。 起き上がろうとする背中を支えるように伸べられた腕に、素直に体を預ける景麒の姿に、浩瀚は自然溢れる涙を止められなかった。 延麒から己の身に起きた変事を聞いた後、冢宰府へ戻る道すがら浩瀚は遠甫から言われた事を思い出していた。 「延台輔はのぅ…麒麟じゃ。麒麟だからこそ、わざわざこのような凶事に、それも他国の凶事に身を寄せて下さったのだな」 「"慈悲の生き物"だからでありましょうか?」 「まぁ、それも強ち外した答えではあるまいが…本質はもう少し違う場所にあるのではないかね?」 浩瀚は遠甫の謎掛けのような問いに、答えを見出す事が出来なかった。 「…冢宰の身でありますが…私には判りかねます…」 「何の、難しい事ではないよ」 ゆったりと微笑む遠甫を見つめ、浩瀚は続きを待った。 「麒麟には親兄弟がいないのはこの世に生まれた者なら誰しもしっておるな。女怪という庇護者がおるにはおるが、あれはあくまでも乳母という存在であると認知するが易しい。 捨身木より生まれ出るは、己が身を必要とされる時、国の成り立ちに必要とされる時だけである。 そして、生まれれば唯"王の為だけに在る事"を許される…思えば憐れな存在であるとは思わぬか?」 「畏れ多い事とは存じますが…幾許かはそう思えぬ事もございません」 「しかし…真に憐れかと、孤独かと申せば一概にそうとも言い切れん」 遠甫は…何を言いたいのであろうか? 「勿論、主と讃える"王"がおわす。王の為にだけ"在る"から孤独とは云えんな。しかしこれは麒麟の麒麟たる所以であるのだから"憐れでは孤独でははない"という理由に挙げるのには些か乱暴であろう。 ならば、他の理由とは何であろうか。生国は違えど…同じ麒麟として生まれた者。麒麟にしかわからぬ繋がりという物が存在する事は、泰麒探索の折にお主も判った事であろうぞ。それを俗に申せば…兄弟とも…云えん事も無いのではないかとな」 浩瀚は漸く遠甫の言わんとする意味を理解した。 ただ、麒麟としてではなく…愛しい者として、主に従うという己の本能に背くような真似をしてでも捨て置けない存在…。 そう捉えて見れば、延麒が行った事がすんなりと理解できたのであった。 延麒から受け取った茶碗を口元に当てがい、中身を一口含むと景麒はほぅと息を吐いた。 そのまま未だ色を失った顔を真っ直ぐに上げ、浩瀚へ一言。 「王は、こちらにはおられない。私が起こした鳴蝕によって…流されたと見るが一番でありましょう…」 後悔に満ち満ちた言葉は景麒自身を傷つけていた。 それを止めさせる様に、浩瀚は1つ頷く。 「しばし前に延王君よりその可能性が一番高いという旨は伺っております」 景麒もまた1つ頷く。 「そこまでは…想定の範囲であると…」 どういう意味であろう? その場に居合わせた3人は景麒の顔を伺った。 「主上には、班渠を付けてあります…」 「何だよ!それ先に言えって馬鹿麒麟っっ!」 「六太、仮にもここは金波宮だ。多少は口を慎め…」 勢い立ち上がった延麒の表情は明るい。窘める延王の表情もまた然り。 使令をつけているという事の意味は、浩瀚にもわかった。 例え"あちら"に主が流されていようとも、景麒があちらの世界へ向えばすぐさま使令から何らかの報せが届くであろう事は容易に想像できたからである。延主従もそれに思い至り表情を和らげたのは明白だ。 しかしながら景麒の表情は一向に緩む事はなく、横たわっていた時よりも更に顔色は白く浮きだっているように感じるのは何故であろうか? 「延王君、延台輔と共に蓬莱へ向う事、お許し頂けますでしょうか?」 「今すぐにか?」 「はい…」 一歩も譲る気はないのであろう…景麒は延王から視線を逸らすことはなかった。 「…承知した。景麒、使令を置いていけ。六太も悧角をこのままで、いいな?」 「おうよ」 「それと、確認だけしたらとっとと戻ってこい。六太、それだけは是が非でもやってもらうぞ」 「わかってるよ…」 例え陽子の王気が見つかったとしても、景麒のこの様子では毒気の多い蓬莱で王気を辿る事が不可能である事はわかる。そこまで延王は見越した上での発言だった。 景麒は深々と頭を垂れると、更に一言付け加えた。 「台輔である私自ら延王君にお願い申し上げる事、それ即ち主上がおられないこの国で唯一王の勅令・王自身の希いと同列である事は今更言うまでもありません…非常時故、御国に縋る無礼、お許し下さい…」 「承知した。出来る限りの事はする。浩瀚、何なりと遠慮なく申せ」 「有難き…」 浩瀚はその場で深く深く伏礼をする。無意識に施された最大級の礼。 "これで…私の希望は、この国の希望は絶たれない…目の前におわす神に等しい存在達のお陰で" 呉剛門を開くべく遥か虚海の沖へ向う2つの騎影を、浩瀚と尚隆は何の疑いもなく見送った。 疑いもなく見送る…それ自体が間違いであったのだが、この時には気付きもしなかった。 今にも再び意識を失いそうになる景麒を芥瑚が支え延麒は励まし、慶の遥か東方の虚海沖まで進む。 景麒は己の意識を繋ぎとめるように、淡々と言葉を紡いでいた。 「…届かなかったのです。私が差し伸べた腕は、主上には届かなかった…」 まるで罪を告解するかのような響き。 「"光りが消えてしまう"…そう思ったら、己の中の嵐を抑える事など出来ませんでした。 今ここでこの光りを消してしまう訳にはいかない、ただその一心のみでした。そうして私は…私自身でその"光り"を、消してしまった…」 景麒は以前王を探しに蓬莱へと赴いた。主を見つけた地方は未だ記憶に鮮やかである。 泰麒の例を見ても、己が鳴蝕で主をあちらへ飛ばしてしまったとしたら…主はそこへと流された可能性はすこぶる高いはず。 そうであって欲しいと、景麒は只管希う。 延麒より己が意識を失っている間の経過、何故延麒が、延王が関っているのかの話は道すがら聞いていた。 『今目の前で繰り広げられている凶事は、常世の常識からは全てかけ離れすぎている』 率直な想いであった。 延麒は景麒の鳴蝕が聞こえたと言った。それは延麒だけでなく…常世に今存在する全ての麒麟が感じていたであろう事だと。氾と奏より延に"変事はないか"と遠回しな青鳥が飛ばされた事で推測は可能だと。 麒麟が鳴蝕を起こしたという事実は過去に遡っても度々見られる、そして一番身近の事実として泰麒の鳴蝕が挙げられる。 しかし…泰麒が鳴蝕を起こした時、己は何をも感じる事などなかった。出来なかった。それは延麒も同じであるという。 ならば何故今になってこのような変化が起きたというのであろう? …元来、麒麟が持ち合わせていた能力でなはいのではないか? そして、何よりも"鳴蝕"の中身が問題であるのではと、景麒は思った。 過去の例から見ても、鳴蝕とは麒麟が凶事に見舞われた時に己自身で起こす小さな蝕であるという事実。 各国の史書を紐解いて見ると、それは大抵"鳴蝕を起こした麒麟自体が蝕に流されている"のだ。 確かに…景麒の腕は陽子には届かなかった。 何を以ってしても守らねばならない主を、届かなかった腕が"守れない"と認めてしまう。麒麟はただ王の為だけに存在する、その事実を己自身が打ち消してしまうのである。 それは、何よりの恐怖。 何としてでも守りたかった。この手で、光りを繋ぎとめたかった。 恐慌の中で起きた鳴蝕は、本来の自己防衛本能としての機能"麒麟自身"を流すのではなく、王を守るためという詭弁に満ちた名目、"守れない事実=目の前にいる王"を流してしまった。 『玉京におわす神々は、この事実を何としておられるのであろうか…』 揺らぐ意識を手繰り寄せ、目の前に広がる景色を景麒は見つめた。 漆黒の海原に微かに揺れる月の円な姿。印を切り開かれる呉剛門。 音も無く淡い白光が月影から漏れるのを確認すると、2つの騎影はたゆとう光りの中へと飛び込んだ。 □■□
痛い。 身体中の全てが、己という形を作り出す全ての物が痛みを訴えているのが解る。 縫い付けられでもしたかのように重い目蓋を必死に抉じ開けようとしてはみるが、一向に動く気配はなかった。せめてどこが痛みを感じるのか確認しようと身体を腕で擦ってみたいのに、指1本すらまともに動いた感触はない。 今の己に理解できるのは…閉ざされた目蓋の下からでも感じられるのは、薄墨を流し込んだようなぼんやりとした光りに包まれている事だけ。 何故このような場所にいるのか? 何故身体中に痛みを感じているのか? 何故指1本動かせないのか? 何故私は… 私?私とは? 「わ、たし…は…」 己の物とは思えないような擦れた声。 絶え間なく襲ってくる痛みに遠のこうとする意識の中、微かに響いた別の声。 『今は…眠りなさい…』 その響きはどこか懐かしくて、彼女は促されるまま淡い光りの中に意識を飛ばした。 □■□
呉剛門を潜った途端、薄らいでいた景麒の意識が一気に覚醒した。 ピンッっと伸ばされた背中に六太は無言で問いかける。 「とても弱い…それでも感じます。私にしか感じられない…」 「お前の読みは間違ってなかったって事だな!抜けた先ですぐ見つかるかもしんねー!」 「違う」 「はぁ?だってお前今陽子の王気感じたんだろ?」 六太は訳がわからないと頭を左右に振る。 違う、これは… 目の前に迫り来る蓬莱へと繋がる門。 しかし、その先から感じられる物ではないのだ。 「違う!こちらではない!!」 叫び声を挙げてはみても走る驃騎は止まらない、止まる事が出来ないのである。 常世と蓬莱を繋ぐ呉剛門、その間に広がる空間はどちらにも属さない。あちらとこちらの月の光が届く範囲だけに道が敷かれ、そこだけが本来交わってはならぬ物同士を唯一結びつける…無理矢理結びつけた道は、ゆったりと止まって居られる程の安定さは皆無に等しい。 潜りぬけた蓬莱側の門の先に…王気はなかった。 「景麒?」 訝しげに伺う六太に、景麒は唯首を振る事しか出来なかった。 どちらにも属さない空間は閉ざされている。 『道から外れてしまえば戻る術はない』と、廉麟は言ってはいなかったか? だから、道から外れないように廉麟の腕を放す事はできないと。 離してしまったら最後… 躍り出た海面の上で、2つの騎影は止まった。 凪いだ海面に映るまろい月影。 瞳を閉じ、己の額に意識を集中させる…求める光りのみ思い浮かべて。 研ぎ澄まされていく獣の感覚、麒麟の本性。 半刻…景麒は動かなかったが、閉ざされていた瞳を抉じ開けると一言。 「主上は、呉剛門の狭間に囚われている」 確信を持って呟いた。 続
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