あなたがしらないこと |
「…それ、どういう意味…」
あーあ。全くもって想像通りの反応返されちゃったよ。 だからと言って用意している言葉が変わるって訳じゃないんだけど。 「額面通りの意味だよ。聞こえなかった?」
「なな…」 「疲れちゃったんだよ。俺」 そう。これは本当。 大切に、大切にしてきたでしょ? 何よりも君が一番で、何よりも優先させて、何よりも大切にして…しすぎてちょっと疲れちゃうくらいに。 だってそうでしょ? ほんの少しでも気を抜いたらいなくなっちゃいそうだったじゃない? 「七地っ」
「君だって薄々感じてたんだろ?そうじゃなかったらこんな事しないだろうし」 「それは…」 ほら、そんな物欲しそうな顔しちゃって。 でも、その顔…本当じゃない。 いつでも俺を試そうとする為に用意された顔の1つじゃないの。 「それだよ。それ。いい加減…ウンザリだったりして」
ふぅと小さな溜息1つ。 勿論、君の耳に届く大きさで零すのは当たり前。 そ知らぬ顔をしつつ、確信犯。 それでも…震えそうになる身体を叱咤して、いつもと何1つ変わらない笑顔を向けながら。 「ウソツキ」
聞こえるか聞こえないかギリギリの君の声。 でも俺にはバッチリしっかり聞こえちゃってるって、やっぱり君の方が確信犯って何だかなー。 「どっちがどっちだかねぇ?」
ずっと、俺から"さよなら"言わせたがっていたじゃないか。 だからお望み通りにしてあげただけ。 "縛られてる"なんて、絶対思われないように。 側にいたいだなんて言わなかったでしょ? "会いたい"だなんて、俺から言った事なかったでしょ? ただ"優しく"したかっただけ。 だから君の願いは全部叶えてあげた。 でも、こんなに扱い易かったら…すぐに忘れちゃうね。 「バイバイ」
「言うなっっ!」 「もう君と会う事はないよ」 「七地っ」 ほら、こんなに簡単。 逃がしたくなければ力づくで奪ってきた君なのに、手を延ばして来る事すらしないじゃないか。 ほんと、簡単すぎちゃって涙が出そうなくらいにね。 ああ。 どんな顔して俺の背中見送ってるの? ちょっと安心した顔?それとも形だけは泣きそうな顔? どっちもホントでどっちもウソな顔? もう…どうでもいいんだっけ。 静かに静かに玄関へと向い靴を履く。 指先が小刻みに震えて、簡単なはずの靴紐がなかなか結べない。 急がないと駄目なのに。急がないと…。 もたつく指が忌々しくて視界が滲む。 世界が歪んでいき、何もかもが薄い膜を被ったかのように曖昧になっていく。 やっとの事で靴紐から解放されると同時に肩に感じたどこか遠い熱に…意識を一気に彼岸まで飛ばされそうになった。 「…行くな…」
最後まで君はズルイ。 メチャクチャにしたかったよ?本当は。 どうにもならない程悔やむくらいに、一生消えない生々しい傷を残すくらいにメチャクチャにしたかった。 君の期待通りに、こんな呆気なくいなくなってあげるんだから。 もっと酷い事言って、もっと傷つけてもよかったでしょ? ずっと忘れないように。 刺さった棘のように。 だから、最後の悪足掻きくらいさせてくれてもいいよね? 肩に感じた熱を一気に抱き寄せ 焼け爛れるような熱を一瞬だけ。 「バイバイ」
やっぱり…君は泣いてなかった。 いかにも『絶望に叩き落とされました』なんて顔をしたってね…。 最後の最後まで俺の予想範疇。 ああ。思い通りになりすぎるのも…疲れるんだね。 最後の最後で気が付いた。 後手にドアを閉めると、待ち構えていた人影。 「はい。これで全部おしまい」 「…本当に、いいのか?」 「いいもなにも、今更何言ってるの?」 「七地君」 「さよなら」 俺の中では極上の部類の笑顔を置き土産に。 ヒラヒラと片手を振りながら愛車へと乗り込んだ。 エンジンをかける手はもう、震えていない。 うん…大丈夫。 置き土産と一緒に、溢れすぎた想いも捨ててこれた証拠。 アクセルを踏み込んで、既に懐かしい場所となろうとする地を後にする。 誰かが遠くで何か叫んでるけど、振返る必要はない。 もう二度と会わない人達。 二度と足を踏み入れる事のない場所。 どこまでが本当で、どこまでが嘘だったのか。 ここまできたらどうでもいい事なんだけど…ね。 めちゃくちゃにしたかったのは本当。 ずっと忘れないように。 めちゃくちゃに出来なかったのも本当。 だって大好きだったから。 あなたがしらないこと。 結 |
chapunの言い訳 出張所にて、暇にまかせて20分くらいで書いた物をちょっと手直ししてUP。 意味不明だけど、「闇七お別れ場面その1」みたいな感じっぽい。 昔昔、遥か昔に好んで聞いてた歌のタイトルそのまま拝借。 |