視線も 言葉も 身体も 匂いも 想いも あなた という 存在 その 「全て」 が愛しくて…恋焦がれているんだ ただ、只管に求めてしまう 「あなたしかいらない」 と 叫び続ける心を抑える術を知らない俺は やはり馬鹿げているんだろうか? でも、こんな自分、嫌いじゃないんだ… イ ト シ イ ヒ ト
目の前で楽しげに笑う人物を、闇己はただ只管に見つめていた。 他愛もない会話に、ころころと楽しげに声をあげる姿を。 声に合わせ、緩やかな弧を描く優しげな眸を。 滑らかに言葉を紡ぎ出す口唇を。 「…闇己君?」 「ん?」 突如会話を途切らせ、七地は小首を傾げた。 「どうした?」 七地の問いかけに更なる問いを投げる闇己。 しかし、返ってきた言葉は何とも腑に落ちない中途半端なそれで。 「ううん、何でもない」 クスっと笑みを浮かべると、それでね…なんて、何事もなかったかのように話を続け出す。 ”何が言いたいんだ…?” 七地の様子を伺っても、問いかけの真意を見つける事が闇己には出来なかった。 何となく手持ち無沙汰で、闇己は目の前にあったデミタスカップの中身を徐に呷った。 つい先程まで、会えなかった日々の出来事を互いにポツポツと語り合っていた。 抱えていた想いを通わせあったのも束の間、互いに忙しい日々を過ごす2人はなかなか時間を作る事が出来ずにいて。 何とかひねり出した休日を、こうやって過ごすようになって今日で5回目。 話を振ってくる七地に相槌を打ちつつ、日付に呼応するようその時自分にあった出来事を話していたはず。 特に変わった事、おかしな事もなかった…闇己はそう思っていた。 「何か、おかしな事言ったか?」 些細な事なのだろう。七地が敢えて何も言わないのだから。 それでも闇己は気になってしまう…相手が七地だから。 これが七地以外なら鼻にもかけないであろうが、何よりも愛しい想い人の反応。 それこそ些細な事まで気になってしまうのは道理であろう。 「いや、そんな事ないよ?」 「じゃあ、何で話を切った?」 うーん…考えるような素振をしつつ、腕組をする七地に。 闇己はただ黙って再び視線を送る。 何があろうと、闇己は七地から視線を外さない…それだけは変わらないのだと。 「幸せだなって、そう思っただけだよ」 言葉通りに幸せそうな微笑みを浮かべ、恥ずかしげもなく七地は言った。 真っ直ぐに視線を交わしていた闇己にとっては堪ったものじゃない。 カァっと顔に血が昇るのを感じると、闇己はこの店に入って初めて七地から視線を逸らした。 上がる鼓動を落ち着かせるため、普段より1トーン落とした声で闇己は呟く。 「…あんたな…」 「ふふん、だってそう思うんだから仕方ないし?」 ”年上の余裕デス”と言わんばかりに、アイスカフェオレのストローに七地はちゅぅっと吸い付いた。 コクリと喉を鳴らすと、闇己に向かって右手人差し指を”チョイチョイ”と動かす。 誘われるまま闇己は七地の傍に顔を寄せると、闇己の耳元で更にとんでもない事を七地はのたまった。 「だってさ、君の視線1人占め出来るだろ?それって幸せ以外の何物でもないし」 ほんの少しの照れを纏った七地の声に、今度こそ闇己の顔は完全に色付いてしまった。 ”こんな顔で睨みを効かしても意味ないか”とは思いつつも、それでもどこか癪に障って闇己は七地を睨みつけた。 「そんなに睨まないでよ〜。本当にそう思うんだからしょうがないじゃん?」 「まだ言うか…」 「へへへ。いいじゃない、バレンタインデーなんだし?」 『今日という日だけは、恋人同士は天下無敵!多少メロメロしたって誰もが寛容にならざるを得ないんだからいいの!』と、七地独自の持論を持ち出されたら…闇己に何が言える訳でもなく。 …最初から敵う筈もないのだが。 それほど闇己は七地に恋焦がれてしまっているから。 その視線も、言葉も、身体も、匂いも、思いも。 そのすべてが愛しくて仕方ない。 ”七地”という存在を、丸ごと求めてしまいたいのだから。 「ほら、機嫌なおしてよ?まだ今日の目的達成してないんだからさ。せっかくの休日、満喫しようよ」 闇己の最も好む、少しはにかんだような笑顔を浮かべながら七地は呟く。 確信犯だったら小突く位してもよさそうだが、七地という人物、これ全て天然なのだから始末が悪い。 闇己は盛大な溜息を吐きながら苦笑を浮かべるしかなかった。 「…俺、あんたには一生敵わないと思う…」 「え〜?何言ってるんだか!それって俺の科白でしょ?!」 綺麗な薄茶の眸を盛大に見開いて即答した七地。 思わず2人とも噴出してしまった。 そう、一生敵うはずがないのだ。 ”愛しい人”の思惑にすら、虜になっているのだから。 一頻り笑い合うと、それを期に店を出た2人。 胸の中は、溢れる想いと満ちたりた暖かさで一杯で。 それでも、吹き抜ける北風に多少首を竦めてしまうのは御愛嬌。 本日の目的地、”某有名チョコレート専門店の期間限定カフェ”へ向かって歩き出した。 知ってるよ?いつだって俺の事だけ見つめてくれているんだって。 注がれる熱い視線に気が付かないほど、俺だって鈍くないからさ。 だって、俺だって同じだから。 大好きな君の事、ずっとずっと見つめていたいんだって。 もっと君を知りたくて。 もっと君に近付きたくて。 求めてしまうんだ。誰よりも愛しい君だから。 年上ぶってみたって、結局中身はこんなもの。 余裕なんか一切ないんだから、格好悪すぎ。 そんな俺って、やっぱり馬鹿げてるかな? …でも、こんな自分、嫌いじゃないんだ。 Fin.
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<chapunのコメント> 微妙な甘さ?! 『KOKORO』という既存のお話の2人の続き…みたいな感じで書いてみたんですが。 このシリーズ?の七地は”ちょっと年上の余裕風を吹かす”ってのがコンセプトなんですが、イマイチっすね; でも、こんな感じの2人、嫌いじゃないんです!ゴメンナサイ;_| ̄|○||| |