欲しいんだけど (出来×のび) |
「どうしたの?」 「…」 「さっきまでこの系列の問題解けてたじゃない?公式も理解できてると思うんだけど…」 「…」 「…」 "おかしい…のび太が怒っている。" のび太一筋○年の出木杉だからこそ感じ取る事の出来るような些細な変化であった。 本日は来るべき学年度末考査(所謂期末テスト)に向けて、のび太の学力向上を目的とする勉強会を出木杉宅で行っている。 授業終了後、寄り道もせずまっすぐ出木杉宅に辿り着いてから既に2時間弱。 たった今の今までは真面目に勉強をしていたというのに…急転直下、のび太の機嫌が悪くなったのである。 『休憩なしでいい加減飽きてきたのか?しかしそれならば"飲み物欲しい"だの"お菓子食べたい"だのとアピールしてくる筈だし』 『昼寝…するには後1時間程勉強を頑張った所で我慢は効く筈だし』 『ドラ○もんが恋し…いやいや、それはいい加減卒業してもらわないと』 等と出木杉がどうでもよさそうでどうでもよくない事につらつらと思考を費やしていく最中にも、のび太の機嫌は更に下降を辿っていっているようで。 出木杉と向かい合って座っているテーブルに両肘をつき、真っ赤な顔をして幾分涙目の上目遣いでジトっと睨み付けてくるのび太のその姿。 本人は至って『怒ってマス』な表情なのだろうが、出木杉にとってはただの目の毒でしかない。 『だからさ、その上目遣いやめてよ。誘ってるとしか思えないし…』 『半分涙目チックに睨まれたって、情欲で潤んでいるようにしか…』 『そんな風に口唇尖らせるなんて、キスのおねだりかと…』 『真っ赤な顔したら恥らっている風にしか見えないんだけど…』 出木杉ビジョンにかかれば、このような腐れ妄想に効率よく変換されていってしまうのび太の風貌。 ある意味哀れである。 しかし出木杉は妄想特急をかっとばす事は出来ても、未だにのび太の不機嫌の理由を見出す事が出来ずにいるのだった。 「あの…ね?のび太…」 "ニッコリ"としか表現できない、誰もが見蕩れる綺麗な笑みを浮かべつつ出木杉はのび太のご機嫌伺いをしてみた。 が…いつもなら『ほぇ〜』と呆気なく見蕩れるのび太が今日はこの笑顔にも靡かない。 そろそろ本腰を入れてのび太の不機嫌理由を探ろうと出木杉が気持ちを切り替えようとした時。 「…くれないん…よ…」 「へ?」 すこぶるマヌケな表情で。 出木杉は己の耳をちょっとばかし疑った。 「えっと…のび…太…」 「…」 ぷいっと逸らされたのび太の顔は、先程よりも更に赤味を増していて。 言ってしまった言葉が失言であったとばかりに顔を顰めていると言う事は…聞き間違いではなさそうである。 「それって…もしかして…」 別に焦らすつもりもなく。 唯単にもう1度のび太の口唇から同じ言葉が発せられるのを、出木杉は耳に心に刻み付けたかっただけなのだが…いかんせん気付くのが遅すぎたのか、聞き返した事でのび太の機嫌下降度数はMAXにまで到達してしまったようだった。 「だからっ!何でいっつもいつも"好き"だの言いまくったり"キスしたい"っていうかしたりする癖に肝心なモノを寄越さないんだよっ!出木杉って本当に賢いのか、実はただの馬鹿なのかわかんないじゃないかっ!っていうか、こんな事僕に言わすなっっ!」 ハァハァハァ…肩で息をしつつ一気に言い募ったのび太は、そのまま立ち上がると「帰る」と一言。 そそくさと広げられていた教科書や参考書等をカバンに突っ込むと、ハンガーに掛けてあったコートをひったくるように手に取った所でやっと出木杉の脳味噌が覚醒した。 「ちょっ!ちょっと待ってのび太っっ!」 傍から見ても自分で客観的に見ても"憐れ"と思うほど上ずった叫び声をあげて、出木杉はのび太を引き止める為に彼の腰にタックルをかました。 「う、うわぁっ!」 ドスンと鈍い音を立て、出木杉に押し潰されるような形でのび太はフローリング床の上に転がってしまった。 「な、なにするんだよっ!」 「だからちょっと待ってってっ!」 「僕はもう帰るん…」 痴話喧嘩宜しく言い合っている二人に向かって、タイミングがいいのか悪いのか…大きな荷物が落ちる様な音に反応した出木杉の母が心配そうに階下から声をかけてきているのが耳に届く。 「英才さ〜ん?何かあったの〜?」 "帰るな"と射殺すような強烈な視線をのび太に送りつつ、出木杉は自分の部屋のドアを開けた。 余りの視線の強さに、のび太は動く事も出来ずそのまま床の上に延びたまま。 「大丈夫です。参考書を取ろうとしたら手を滑らせてしまっただけなので」 「それならいいんだけど〜。もう少ししたらお夕食できるから、のび太さんにも召し上がってもらうように伝えておいてちょうだいね〜?」 「はい、わかりました」 凡そ20秒程で母とのやりとりを終えると、出木杉は後手にゆっくりとドアを閉じた。 ふぅと小さな溜息を1つ零すと、出木杉は真っ直ぐにのび太を見つめた。 その視線は何よりも熱くて、強くて…蛇に睨まれた蛙のように逸らす事を許されない。 のび太はただただ与えられる熱を逃がすよう、短い呼吸を繰り返すだけである。 出木杉はしばらくのび太を見つめると、魅入られるように吸い寄せられるように、ゆっくりとのび太の元へと歩み寄った。 のび太が転がったままの床。その背後にはセミダブルの出木杉のベッド。 だらしなく投げ出されたままののび太の足を跨ぐ様に出木杉は多い被さると、右手を静かにベッドへと伸ばした。 間近に迫る出木杉の整った顔を、のび太はぼんやりと見つめる。 遠くから見ようが近くから見ようが出木杉の顔は綺麗で。 男とか女とか関係なく、単純にのび太は出木杉の顔を好いていた。 "綺麗なものは綺麗"と認められる素直さを、16歳になった今現在も変わる事なく持ち続けたのび太。 そんなのび太が、元々嫌いではないものに長い間好意を寄せられ続けていたら? ルックス良し、性格良し、ついでに頭もすこぶる良し。 欠点が見つからない程オールマイティーな人物に、だ。 それが例え"同性"だったとしても…拒める者などいるのであろうか?と。 根が単純なだけに、答えに辿り着けばあっけない程理解するのは楽であったのは言うまでもない。 それでも、変なプライドみたいなものが邪魔をして、自分から出木杉に告げるつもりは未だ持ち合わせてはいなかったのだが。 何が災いしたのか…本日ののび太、どうにも抑えが効かなかった模様。 まぁ、今日と言う日を鑑みてみれば、しょうがないと言えなくもないのだが。 普段は美少女のように見えるのび太ではあるが、そこはそれ。中身は列記とした男。 覚悟を決めてしまえば、結構行動はストレートなのだ。 本来持ち合わせている"いたずら心"がここへ来てむくむくと湧き上がってきてしまう。 何をしているのか。出木杉はのび太の背後に右手を伸ばしたままゴソゴソと何かを探り続けている。 このチャンスを逃す訳にはいかないと…のび太は目前の美男子へと口唇を寄せていった。 「…それ、反則…」 一気に脱力した出木杉は、今度こそのび太の上に完全に覆い被さってしまった。 "してやったり"とばかりにクスクスと笑うのび太を諌める事すら今の出木杉には不可能で。 のび太に縋るよう覆い被さっている出木杉の顔を伺う事は出来ないが、のび太が横目で微かに覗く事の出来る首筋や耳は真っ赤に色付いていた。 「たまには勝った気分になったっていいだろ?」 「僕はいつものび太に負けっぱなしだよ…」 「ヨクイウヨ」 今度は二人揃って笑い出す。 何だか気分が良くて。熱くてあったかくて、体中がホカホカしていて。 何とも言えない穏やかな気分になった所で、漸く出木杉は顔を上げた。 「お待たせしました。ご所望のチョコレートでございます」 「"しょうがないから"貰っとく」 「有難き幸せ…」 先程のび太が仕掛けたものよりは大分長く、熱くて甘い触れ合いを出木杉から与えられるのび太。 普段なら照れ臭くて、全力で逃げ出そうとするのだが… 『バレンタインだし、ま、いっか』 欲しかったものは貰ったし…と言う事で、素直に甘受するのび太であった。 『初めてのび太から出木杉を求められた記念日(多少語弊アリ)』として、本日(2月14日)が出木杉の中の"のび太アニバーサリー's"の中で最重要の位置を占める様になったのは言うまでもない。 結
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chapunの言い訳 出来×のび第三弾?! やはりヘタレ出木杉さんが大好きなchapunです!(シネ; |