餌付け(出来×のび)





「お菓子ちょーだい」



悪びれもせず当たり前のようにのび太は右手を差し出した。
御年16歳の青年というには線の細すぎる人。
というよりも、本来持ち合わせている性を匂わせる事すらしない中性的な雰囲気を全身で醸し出す危うさを兼ね備えた、傍から見れば「少女」。

些か黒目がちで色素の薄い瞳。ほんの気持ち程度の上目遣い。
極度の近視の為に通常的に潤んだそれはぶ厚いガラスレンズの向こう側にあるのだが、縋るように見つめられたら…。


"拒めるはずなんかないでしょうに"


ふぅと、わざと聞こえるような溜息を1つ零しながら。
出木杉はこれも当たり前のように、ポケットの中から小さな飴玉をいくつか取り出した…その見目に似つかわしくないような子供っぽい味のソレ。

「これでいい?」

余裕の笑みを浮かべて差し出された手のひらに乗せてやると、何が面白くないんだか。
あからさまに頬を膨らませ、稚い子供のように口唇を尖らせて。

「なんで出木杉はいっつーもお菓子持ってるんだよ?お前自分じゃ絶対こんなの食べないだろ?」

とか何とか言いつつ、のび太はたった今受け取ったばかりの飴玉を口に放り込んだ。

「うん?わからないの?」
「全く」

さも心外だと言わんばかりの大げさなリアクションでやさぐれた出木杉に向かって、のび太は遠慮会釈なくバッサリと切り捨てた。

苦笑を浮かべた出木杉は「困ったね」と、本当は全然困ってもいないくせにふりをした。
"全く、可愛いすぎ…"腹の中では脂下がった顔を晒しながら。

絶え間なく抱える胸の思いをぶつけているというのに。
隙あらばこの感情を刻みつけようと、四方八方から手を尽くして包囲網を張り巡らせているというのに。
わかっているのに知らないふりをする思い人。
そのくせ、時に人の思いを試そうとする。

"偶には本当の事を御互いに知らしめてもいいかもね?"

誰もが見蕩れるような笑顔を浮かべた出木杉に、不覚にものび太は視線を釘付けにされてしまった。

"ほら、こんな簡単に隙なんか作っちゃって"

そんな無防備すぎちゃ、困るんだって。これは本当。

どこかしらうっとりと出木杉の顔に見入るのび太の隙を出木杉が見逃す筈も無く。

「知りたいなら教えてあげるけど、後で困っても知らないよ?」
「…なに、それ…」

更に視線を背けられないような笑みを浮かべた百戦錬磨の出木杉から、のび太が逃れられる筈も無く。

ほんのりと薄紅に染めた頬を堪能するように延ばした指先でのび太の頤をクイッっと上向けると一言。

「餌付けだよ」

攫うように口唇を重ねた…ほんの一瞬の出来事。
離れ際、ペロッっと口唇を舐め上げたのは御愛嬌。

「なっ、なっ、なっ!」

真っ赤な顔で声にならない声をあげるのび太に向かって出木杉は悪びれもせず言いのけた。

「甘いね、その飴」

邪気のない出木杉の笑顔はのび太の怒りをあっけなく削いでしまって。
悔しそうに上目遣いで出木杉を睨みながら、口の中でモゴモゴと飴玉と文句の言葉をのび太は転がした。

多分のび太は勘違いしている。
自分がお菓子によって出木杉に餌付けされているんだと。
しかし、本当はちょっとばかり違う。

『"出木杉のお菓子を食べたのび太"を"つまみ食い"する事によって"のび太自身"に餌付けされている出木杉』

これが正解。

多分、餌付け完了までは気が付けないだろうけどね…と。
爽やかな笑顔の裏でほくそ笑む出木杉の妖しさにのび太が気が付くようになるまであと2年。










chapunの言い訳

出来×のび第二弾?!
ヘタレ出木杉さん大好きですっっ♪(シネ;


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